うたかた

深茜 了

うたかた

木漏れ日が柔らかく降り注ぐ午後の庭。


その庭に彼女が座れるよう椅子を出し、腕や背中を支え座らせる。

顔を上げて景色を眺める彼女の目は、目の前の風景を見ているようでもあり、何も映していないようでもあった。


その隣に椅子を持って来て、並んで自分も腰を下ろす。

二人で庭を眺めていると、彼女がぽつりと、「私、今が一番幸せだわ」と囁くように漏らした。


そして「林檎が食べたいの。剥いてきてくれない?」と言うので僕は家の中に入り林檎の用意をした。


僕が皿に盛った林檎を手に庭に戻ると、彼女の腕が椅子の横に投げ出すようにだらんと垂れ下がっていた。


僕は彼女の正面に回り、少し横にかしいだ顔を見る。


日の光で照らされる中、両の瞼は静かに下ろされ、眠るようにして彼女は静かに息を引き取っていた。


「私、今が一番幸せだわ」


願わくばそうであってほしい。その言葉が僕のこの先の拠り所となってくれるだろうから。

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うたかた 深茜 了 @ryo_naoi

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