第二作目「ごちそうさま」②
「いただきます!」
教室中の声が重なり次の瞬間には賑やかさが増した。
しかし一人ムッとした表情で椅子に座る少年がいた。
少年の机には銀色の四角い弁当箱がポツンと一つ。
少年はその弁当箱を開くでもなく不機嫌そうに眺めていた。
だが他のクラスメイト楽しげに会話を繋げる。
実に多種多様な弁当箱達と共に。
向かいの席の彼は空色の弁当箱。メインは良い匂いを醸し出す唐揚げだ。
隣の席の少女はシンプルな白い弁当箱。豊富な野菜達が弁当を彩り、肉に巻かれたアスパラガスが目を見張る。
斜め前の彼女は昔から使っているだろうキャラ物の弁当箱。野菜と肉のバランスがよく実に食欲を唆られる。多分この匂いはハンバーグだろう。
溢れんばかりに詰められた愛情を余す事なく彼らは味わっていた。
しかし少年は弁当箱を開かない。
開く必要が無いからかも知れない。
何故なら空っぽだからだ。
彼の銀色の弁当箱はいわゆる
一人だけ何も出さないのは恥ずかしいから自主的に持ってきてるだけの物。
理由について語る程少年は自身の境遇が好きではない。
ガタ。少年は「トイレ。」と一言言って席を立った。
少年が腹を膨れさせる唯一の方法だ。
少年はトイレの近くにある水道で水を飲んだ。
ゴクゴク。ゴクゴク。
少し飲むだけでは腹が鳴ってしまう。
少年は尚も水を飲んだ。
ゴクゴク。ゴクゴク。
意味があるかなど問題ではない。
こうでもしないと何も出来ないからするのだ。
少年は膨れたか分からないまま水道の水を止め教室に戻った。
教室は少年の事など日常の視界の端のように賑やかなままだった。
「?」
少年が席につくとある違和感に気づいた。
弁当箱がちょっと動いてるのだ。
先程までじっと眺めていたから小さな変化もすぐ分かる。
少年は不思議そうに弁当箱を開いた。
そしてその光景に少年は驚いた。
空っぽの筈の弁当箱には何故かおかずが詰め込まれていたのだ。
少年は弁当箱を目を丸くして見た。
少年の席には銀色の四角い弁当箱。メインは良い匂いを醸し出す唐揚げ。肉に巻かれたアスパラガスが彩りを作り出し、ハンバーグの匂いに食欲を唆られる。
一つまた一つと少年はおかずを食べた。
少ししょっぱい味付けは多分こういうものなんだろうと自分に言い聞かせながら。
少年は誰にも何も言えなかったが周りも何も言わなかった。
しょっぱい味付けだが少年は多分この味が一番好きだ。
少年は空っぽになった弁当箱に手を合わせた。
「ごちそうさま。」
テーマを決めて書く小説① アチャレッド @AchaRed
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