第15話 エピソード その⒂


「うう……痛い」


 小雨の降る路上に這いつくばって呻いている人影を見つけた僕は、歩み寄って顔の近くに屈みこんだ。


「随分とひどい目に遭ったようだね」


「……あなたは?」


 倒れていた男性はあざだらけの顔で僕を見つめると、怪訝そうに眉を寄せた。


「僕も同じような目に遭ったことがあるよ」


 僕は苦痛に顔をゆがめている男性に、穏やかな口調で「そうだ、これを君に上げるよ」と言って黒と赤のカードを差し出した。


「……これは?」


「怒りで自分を無くしそうな人の、望みを叶えるカードだよ。僕はもう必要ないから、君が使うといい」


「望みを……叶える?」


「そう。どう使うかは後で考えるといい。……それじゃ、後悔しない事を祈ってるよ」

 

 ――千早、君と出会ったのは、こんな結末を迎えるためじゃない。でも、僕にはこれしかなかったんだ。人にはきっと、どうしても避けられない運命ってものがあるんだ……


 僕は困惑顔の男性をその場に残すと、愛しく忌まわしい「過去」に背を向けて歩き出した。


                〈了〉


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グラス・クラッカー 五速 梁 @run_doc

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ