現代アート

#365日ショートショート 303

「学芸員さん。私はね、心の底から感動しましたよ。そう、あそこの壁にある展示です。正直に白状しますと、現代アート展なんて鼻で笑うために来たんですよ。たとえガラクタでも現代アートだと言い張ればそれが通るような、嘘偽りだらけの世界じゃないですか。そんなの、作っている本人の自己満足と承認欲求の表れに過ぎませんよ。どうでもいいものに何かを見出したつもりで悦に入っているような、そんな程度の奴らです。実際、まさにそういう作品はいくつか展示してありました。私の想像通りの、そう言い張りたいためだけの現代アートです。まるで自己満足の塊。……ああ、すみません。つい正直に語ってしまいました。でもね、あの壁のやつ。あれは良いですよ。素晴らしい。まず何より、奥ゆかしい。自己主張がない。ふとすれば見過ごしてしまいそうな展示だ。しかし、あれはシンプルながら多くを語っていますね。この美術館の歴史を疑似体験させてくれるような、そんな趣を感じます。あの一歩引いた姿勢が、実に気に入りました。ぜひ教えてください、あれを手掛けたのは誰ですか」

「申し訳ございません。あれは壁のシミです」