ぴょんと

碧月 葉

三途の川にて

 ああ、白檀の香り。

 身も心も清清としている。

 遠くに見えるのは紅、白、黄色の清らかな蓮の花畑。


(彼処へ行きたい)


 私は足元にある小さな川を、ぴょんと飛び越えようとした。


「コラっ」


 凛とした声が響いた。

 向こう岸で細面の美人が眉を吊り上げている。


「最近疲れが溜まって……私もあの花を見て癒されたいの」

「蓮なんてそのうち嫌でも見れるさ。あんたはまだこっちに来ちゃいけない。聞こえるだろう」


 耳をすますと、夫と娘の呼ぶ声が。


「家族の側にいてやりな」

 

 その人は嬉しそうに寂しそうに笑った。



 私は一命を取り留めた。

 


 何十年も後、一枚の古い写真が出てきた。


「俺を産んでくれたひとだ」


 夫が呟いた。

 私は、細面の美人にそっと手を合わせた。

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ぴょんと 碧月 葉 @momobeko

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