第13話 残念

「あん?見ない顔だな」


護衛隊長に案内された、兵舎に併設された訓練場。

そこで全身に高負荷をかけて訓練をしていると、見知らぬ奴らが俺に近寄って来た。

鎧なんかは身に付けてはいないが、まあビミョウ家に雇われている兵士だろうと思われる。


「新人かぁ?」


「ん?おまえEランクか?なんでお前みたいな雑魚がここにいやがるんだ?」


「おい、無視してんじゃねぇぞ。答えろ」


気にせず訓練していると、本格的に絡んで来た。

鬱陶しい奴らだ。

訓練しに来たんなら訓練だけしてろ。


「俺はエロカワの代理人として雇われた人間だ。分かったんなら失せろ」


傍に居座られたのでは、気が散ってしまう。

集中して訓練したいので、俺は手首を振ってさっさと消えろのジェスチャーをする。


「はぁ?たかがEランクが代理人だとぉ。寝言は寝て言え」


「けっ、法螺吹き野郎が。だいたいなんだその態度は?弱いくせに調子に乗ってんじゃねぇぞ」


護衛に絡まれた時も思っていた事だが、貴族に雇われている兵士にしては柄が悪い。

下っ端はどこもこんなもんなんだろうか?


「気にいらないってんなら、勝負してやる。かかって来い」


口で言っても時間の無駄だと判断する。

こういう輩は、手っ取り早くぶっ飛ばした方が早い。


「はぁ?ふざけてるんのか!!」


相手は4人で全員Cランク。

強さは恐らく護衛隊長レベルなので、4対1で戦っても問題ないだろう。


「挑まれた勝負から逃げるのか?」


「どうやら、頭のおかしい奴みたいだな。いいだろう。俺がお前に現実を教えてやる」


男の一人が前に出て、拳を鳴らす。

どうやら一人一人で来る様だ。


ま、紋章のランクだけで言えば2つも下な訳だからな。

当たり前か。


「行くぞ」


俺は体にかけていた負荷を解き、その力を身体能力の強化へと反転させた。

そして真っすぐ突っ込んで、男の喉元めがけて素早く手刀を突き入れる。


「させるか――なっ!?がぁぁ……」


男が咄嗟にガードしようと手を上げるが、俺は突きを止めて首をガードする手を掴み、素早く引っ張り相手の体勢を崩した。

そして剥き出しになった脇腹に、膝蹴りを叩き込んでやる。


「マジかよ!?」


「相手はE ランクだぞ!何やってんだ!?」


痛みに男が崩れ落ち、それを見ていた他の3人が動揺を見せる。

分かりやすい三下っぷりだ。


「次だ。かかって来な」


「こいつ……」


「ドギンは油断してただけだ。まぐれが入ったからって調子に乗んなよ!」


何をどう見たら、さっきの動きがまぐれになるのか?

真面に見てたらありえないんだが?


こういうのをバイアスって言うんだろうな。


「こうなったら、3人がかりでやるぞ」


相手が3人がかりでかかってこようとする。

どうやら口ではまぐれと言ってはいるが、俺が自分達より強い事はちゃんと認識できている様だ。


「何をしている!」


3人が三方に散らばり、俺を囲んでじわりじわりと間合いを詰めて来る。

相手の囲む動き黙って受け入れたのは、多対一での戦いの、ちょっとした実践訓練になるかなと思ったからだ。

まあ、普通にやったら瞬殺だし。


だが、奴らがかかって来る直前に横やりが入った。


「バズン様……」


バズンと呼ばれた青髪の男——Aランクだ。

その背後には、Cランクの紫色の髪の女性が付き従っている。

ランクから考えて、上の立場の人間である事は間違いないないだろう。


「何をしていた?」


「いや、これは……」


囲んでいた男達は、気まずそうに俺から離れていく。


「訓練場での私闘は、禁止されているのは知っているな?」


どうやら、此処での勝負は禁じられているみたいだな。

まあ俺の知った事じゃないが。


「じ、実はこいつが急にドギンに襲い掛かってきやがったんです」


男の一人が蹲るドギンを指さし、俺にいきなり襲われたと言い出した。

どうやら俺に責任を押し付けようって腹の様だ。

ふざけた話である。


「不意打ちで襲われたから、仕方なく対処したと?」


「そうです!俺達はルールを破った訳じゃありません!」


「彼らの言う事は事実か?」


バズンが俺に尋ねて来る。

もちろん事実でも何でもない。


「お互い合意をとって正面から倒す事を、ここじゃ不意打ちっていうなら……まあそうなんだろうな」


「ふざけるな!正面から戦って、EランクがCランクに勝てる訳がないだろうが!!」


「そのEランクを3人で囲って倒そうとしてた時点で、説得力は皆無だぞ?」


本当に俺が不意打ちで一人を倒しただけの雑魚なのだとしたら、3人がかりで囲む必要なんてないだろう。

反撃で軽くぶちのめせばいいだけなのだから。

此方を警戒しまくっている時点で、その話には無理がある。


「尤もな意見だな」


他のアホ共と違い、バズンはまともな判断力がある様だ。

俺の言葉に納得する。


「お前達は規則を破った罰として、3日間の懲罰房入りを申し付ける」


「そんな!」


「不服でもあるのか?」


「い、いえ……」


バズンに睨みつけられ、3人は黙りこくる。

そうとう恐れている様だ。


「では行け」


「「「はい」」」


三人が命じられて、その場を去ろうと此方に背を向ける。

俺はそのうちの一人の延髄に向かって飛び蹴りをかます。


「ぎゃっ!?」


男が吹っ飛ぶ。

蹴りの反動を利用し、俺は更にもう一人の背中に蹴り飛ばした。


「ぐわっ!?」


そして最後の一人に攻撃を加えようとした所で――


「何のつもりだ?」


バズンに遮られてしまう。

蹴りを出した足を、奴が片手で受け止める。


「勝負の最中に、背中を見せた間抜け共ふとっばしただけだが?」


戦いの最中に敵に背を向けるなど、間抜けのする事だ。

当然その隙を俺が見逃す訳もない。


「ここでの勝負は禁止だと、聞こえなかったのか?」


「もちろん聞こえてたぜ?それで?」


ビミョウ家に仕える兵士のルールなんだろうが、俺には全く関係ない話だ。

従う理由はない。


まあ穏便に済ませるのなら、見逃すのが一番だったろう。

けど、俺はこのAランクの男が気になっていた。

Bランクをすっ飛ばす事になるが、是非ともこいつと手合わせしてみたい。


「貴様!」


紫色の髪の女が、腰の剣に手をかける。

それをバズンが開いている方の手で制した。


「そう言えば……見ない顔だな。名前と所属を聞かせて貰おうか?」


「お前こそ誰だよ?」


自分は名乗らない癖に、人の情報だけ引き出そうとかムシが良すぎる。


「ふむ……私はビミョウ家、創聖隊副隊長バズンだ」


副隊長でAって事は、隊長は先王級って事か……

いや、同じランクの可能性もあるから必ずしもそうとは限らないか。


「俺はエロカワに雇われた、大会の代理人だ」


「成程……」


「Eランクの代理人など、戯言を!」


紫髪の女が、喧嘩腰に横槍を入れて来る。


「よさないか。確かにランクは低いが、彼の実力は高い。エロカワ様の代理人であっても不思議じゃないだろう」


ランクではなく、強さでバズンは俺の事を判断した様だ。

人の事を自然に見下して来る有象無象とは違い、話が分かりそうな相手である。


まあこのまま勝負に持ち込むなら、話の分からない石頭の方がいいんだが……


「納得してくれた様で何よりだ。所で、靴を離してれないか?」


靴は握られたままである。

パワーではAランクには敵わないので、力づくで引っこ抜く事も出来ない。


「君がもうこれ以上、私の部下に攻撃を仕掛けないのなら放そう」


「そいつは無理な相談だ。何せまだ、勝負の最中だからな」


放しそうにないので、靴から足をすっぽ抜いた。

そしてもう片方の靴も脱ぐ。


片方だけだと、バランスが悪くて動きに影響が出てしまうからな。

それなら両方脱いだほうがいい。


「ここは勝負禁止だ。分かって貰いたいね」


最後の一人に突っ込もうとするが、予想通り回り込まれる。

いい動きだ。


「止めたいなら、力づくで止めて見なよ。喧嘩を売って来た側の都合なんざ、俺が考慮してやる謂れなんてないからな」


「どうしても引かないと?」


「くどいぜ」


「やれやれ……仕方がないな」


そのまま俺と勝負するのかと思いきや、バズンは肩を竦めてさがってしまう。


「止めないのか?」


「エロカワお嬢様の代理人と喧嘩する訳にはいかないだろ。まあ先に喧嘩を吹っ掛けたのがこっちなら、仕方がない部分もある」


相手が名乗ったっから素直に名乗ったのだが、それが裏目に出てしまった様だ。

こんな事なら「俺の正体が知りたければ力づくで聞き出して見ろよ」とでも挑発すればよかった。

まあ済んでしまった物は仕方がない。


「オラ!」


「ギャッ!」


俺は腹いせとばかりに、不安そうに此方を見ていた男の腹を強めに蹴り飛ばす。

いい対戦相手になると思ったのだが、残念だ。


「それじゃ、我々はこれで失礼する。それと……君に余計な手出しをしないよう、部下達には言明しておくよ」


バズンはそう言うと、部下達をつれて訓練場を去って行く。


「さて、それじゃ俺も訓練に戻るか」


バズンと勝負できなかったのは残念だが、まあ大会に出れば、いずれAランクと戦う機会も出て来るだろう。

それまでに、出来るだけ強くなれるよう訓練しておく事にする。


負けて喜ぶ趣味はないからな。

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インフレワールド~次から次へとライバルキャラが出て来る世界で、俺は成長無双する~ まんじ @11922960

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