第12話 アレルギー?

「でっけぇ城だな」


馬車について走る事6時間。

大会の開かれる街――ビンミに辿り着く。


ビンミはビミョウ家の本宅がある場所で、領地内における首都のような物だ。

周囲は高い壁に囲まれており、その人口は軽く50万人を超えるらしい。

内部の建築レベルなんかは最初の街とそれ程変わらない感じだが、とにかく規模が大きかった。


そしてその町の中心には、巨大な洋式っぽい城が立っている。

まだ距離はあるが遠くからもハッキリ見え、そこがビミョウ家の本宅だそうな。


「ビミョウ家は、トウタン王国三大領主の一つですから」


俺の独り言に、護衛の兵士の一人が自慢気に応えた。

王国三大領主。

そんな凄い家に仕えられる事を誇りに思ってる様だ。


だったらもっと精進しろよ。

そう思ったが、まあ余計なお世話なので口にはしない。


「ふーん」


現在は城に向かって、街中をゆっくり進んでいる最中だ。

周囲の人間は俺達――正確にはビミョウ家の馬車を見て、道を開けて頭を下げる。


その表情に恐怖のような物は浮かんでいないので、漫画みたいな、貴族が市民に狼藉を働いたり悪政を強いたりは無さそうだ。


因みに、俺は普通に馬車の横を歩いている様に見えて、例の負荷を全身にかけていた。

これなら徒歩でも結構いい訓練になる。


最強は一日にしてならずだからな。

隙あらば訓練しとかないと。


「あの……紋章の力は止めた方が宜しいかと。もうここまでくれば危険はありませんし、そのままだと城の門兵が警戒しますから」


城門の少し手前辺りで、隊長にそう声を掛けられる。

俺は訓練のために使っていたのだが、彼らには周囲を警戒して力を体に巡らせていたと思われていた様だ。


「ああ、分かった」


仕方がないが、訓練はここまでにしよう。


城門に辿り着き、フリーパスでそこを潜る。

そこから城までも結構な距離があった。

色々な建物や庭園の傍を抜けて城に辿り着くと、門の前で執事風の男と、数人の侍女によって出迎えられる。


「おかえりなさいませ。お嬢様」


先頭に立つ、若い執事が馬車から降りて来たエロカワに頭を下げた。


「「おかえりなさいませ。お嬢様」」


それに続いて、侍女達が頭を下げる。


「出迎えご苦労様。私はお父様達に挨拶に伺いますから、私の代理人を部屋に案内して上げて頂戴」


エロカワは、執事とフジさんをつれて城に入って行った。

それを見送った俺は、護衛の兵士達と一緒に兵舎へと向かう。

どうやら代理人は兵士扱いの様だ。


「よう、ポンコツお嬢様のお守りは終わったのか?」


兵舎の前で、見知らぬ大柄な坊主頭の男に声を掛けられる。

その対象は俺ではなく、護衛の兵士達だ。


鎧を身に付けてはいないが、場所的に考えてこの男も兵士だろう。

ランクはB。


「ガンガ。お嬢様に失礼だろうが!」


「はっ。本当の事を言って何が悪い。14で未だにEランクなんざ、完全に落ちこぼれじゃねぇか」


エロカワもバトラーだ。

というか、貴族は基本全員バトラーだと思っていい。


――バトラーは血統が影響する。


両親がバトラーなら、その子供も高確率でバトラーが生まれて来るのだ。

そのため、力を尊ぶこの世界では、貴族はバトラー同士で結婚するのが基本となっていた。


高確率なら、バトラー以外も生まれて来る事があるのでは?


もちろんある。

そういう場合、まあどういう扱いになるかは想像に難くないだろう。

貴族的には、家門の面汚しになる訳だからな。


但し、それは資産の少ない低位貴族の様な場合に限っての話だ。


この世界では、紋章を持たない者に後天的に力を付与する方法がある。

まあ相当な金が必要になるので一般人なんかには手が出せないが、高位の貴族ならそういった対処も出来ると言う訳だ。


「お嬢様は体質的に宝玉が取り込めないのだから仕方なかろう!」


成程。

どうやらエロカワは、魔宝玉を吸収できない様だ。


そしてそのせいで、成長が一般バトラーと同等かそれ以下になってしまっているため、この家じゃ落ちこぼれ扱いになっていると。

護衛が微妙にポンコツ共だった点も、彼女の扱いに起因すると考えると納得出来た。


しかし魔宝玉が吸収できないって……アレルギーか何かだろうか?


「はっ。事情が何だろうと、落ちこぼれは落ちこぼれなんだよ。ま、精々お守でもしてな。お前らにはお似合いだぜ。はははははは」


ガンガと言う男は、言いたい放題言ってその場を去って行った。

兵士の癖に態度のデカい奴だ。


「ガンガは、アリギス様の専属の騎士なのです。若干19歳でBランクに上がり、将来は戦王級にまで上がるのは確実と言われています。だからあんな不遜な態度を……本当に禄でもない奴です」


「ひょっとして、あいつも代理人として大会に出るのか?」


護衛隊長が、態々詳しく俺に説明して来たのでピーンと来た。

遠回しに、腹が立つ奴だからぶっ飛ばしてくれと言っているのだと。


「はい。タゴサク様ならばあるいわ……いえ、必ず奴の鼻を明かして頂けると信じています!」


「ま、当たれば当然倒す気でやるよ。ただ、クジ運もあるからあんまり期待するなよ」


エロカワは、大会にはBランク以上が出場すると言っていた。

以上って事は、つまりAランクの奴も出場する可能性があると言う訳だ。


さっきのガンガって奴はBランクだったが……まあ多分問題なく勝てるだろう。


問題はAランクだ。

流石にもう一段階上となると、勝てる保証は全くないからな。

もし先に当たったなら、そこで敗退してしまう可能性が高い。


そうなったら当然、願いを聞いてやる事は出来ないだろう。

まあそれに、ガンガって奴が俺と当たる前に敗退する可能性もある。


「取り敢えず……俺の部屋の後に、訓練出来そうな場所に案内してくれ」


何はともあれ訓練だ。

今の俺じゃ、この世界での最強には程遠いからな。

頑張って強くならんと。


「はい!お任せください!」


俺は護衛隊長に自分の部屋へと案内され、それから訓練所へと向かう。

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