第11話 お仕置き
「ふっ」
「ぐぇあ!?」
一番手近な奴の顎に、回し蹴りを入れる。
そいつは馬――スレイプニルの上から大きく吹っ飛び、地面に激しくその体を叩きつけた。
攻撃に対して無反応とか……
流石にまったく反応できない程鈍い訳でもないだろうし、いくら何でも油断しすぎだろ。
これだけ空気が悪い中、攻撃に備えてないとかどんな間抜けだよ。
まあこれも、俺の事を見下しきっているせいか。
「次!」
馬の背を蹴り、今度はその横の奴に回し蹴りを入れる。
そいつも無反応で吹っ飛んでいく。
危機的な状況に対する反射や判断能力が、余りにも低すぎる。
こいつら、護衛としては致命的な程に無能だ。
「貴様!!」
二人倒したところで、やっと他の奴らが状況を把握して動き出そうとする。
其れより早く、近場に固まっていた二人を素早く蹴り倒す。
これで4人。
「おのれ!」
馬を蹴り、5人目に襲い掛かる。
相手は腰の剣を抜いており、突っ込む俺に斬りかかって来た。
俺はその剣の腹の部分を手で払って無力化し、蹴りをかます。
さて、後一人。
「貴様!やめんか!」
隊長の男が怒鳴るが、当然無視する。
話し合いや交渉の段階は、もう既に終わっているのだ。
ていうか、止めたいんなら動けよ。
間抜け。
「く、くるな!」
最後の一人が身を守ろうと、剣を無茶苦茶に振りまわす。
子供かよ、こいつ。
「ぎゃっ!」
当然そんな物に当たる訳もないので、問答無用で蹴り飛ばした。
これでDランクは掃討終了だ。
「こ……こんな事をして、タダで済むと思っているのか!」
「全く問題ない」
この時点でフジさんが動いていない以上、止める気は一切ないと言う事だ。
なら、杞憂は何もない。
「所で……俺が何であんたらに攻撃しなかったか分るか?」
「ふん!Cランクである我々には勝てないと思ったからだろうが!!」
そんな訳はない。
もしそうなら、そもそも喧嘩自体売ってなかった。
「そのまま倒したら、不意打ちで倒したとか寝言言われそうだったからだよ」
勢いでそのまま倒すと、油断してたとかほざきそうだからな。
実力をハッキリ見せつける。
それもいい訳の効かないレベルで。
Dランクだけ先に倒して仕切りなおしたのはそのためだ。
「さっさと馬から降りろ。それとも、馬の足をへし折って引きずりおろしてやろうか?」
勿論、本当にスレイプニルの足を折るつもりなどない。
別に悪い事なんてしてないからな。
魔物とは言え、人間に従順に従う相手にそんな酷い事をしたら可哀想だ。
あくまでも脅し文句。
力づくでも引きずり降ろすぞ、という。
「どうした?怖くて動けないのか?」
「ぬぅぅぅ……ここまで侮辱され、部下たちまでやられて黙ってられるか!レンガ、やるぞ!!」
隊長の男が、スレイプニルから降りて剣を抜く。
「よ……宜しいのですか?」
「あの男から襲って来たんだ!殺しさえしなければ何とでもいい訳はたつ!!」
「分かりました」
もう一人の男――レンガも、スレイプニルから降りて戦闘態勢をとった。
人の事を雑魚と見下しておいて、どうやらCランク2人がかりで俺をやるつもりの様だ。
まあDランクとは言え、6人を瞬殺したんだからな。
警戒するのは当たり前か。
アホウ一人に梃子摺ったのに、Cランク二人はきついんじゃないか?
大丈夫だ。
負ける気が全くしない。
理由は二つ。
一つは、俺のランクが上がった事だ。
FからEになった事で、紋章の出力はかなり上がっていた。
それに加え、昨日の反発訓練のお陰で、手に入れたばかりで漠然としていた紋章のコントロールに磨きがかかっている。
そのため今の俺の強さは、アホウと戦った時よりも大幅に――自己判断で1,5倍程――増していた。
もう一度奴と戦ったら、今度はあんな苦戦はしないだろう。
そしてもう一つの理由だが――
あの二人がアホウよりも確実に弱い点だ。
動きから見て、戦闘の技術的な物は大差ないように感じる。
じゃあ何故弱いのかと言うと、それは紋章から感じる力の差だった。
紋章のランクは、あくまでも成長段階を示すものでしかない。
その出力には多少の個人差がある。
そう神様は言っていた。
多少なら大した差はないだろうと、その時は聞き流したが……
あの二人とアホウとでは、同じランクとは思えない程の差が感じられた。
どこが多少だよってレベルである。
まあ神様基準の多少と、矮小な人間基準とでは大きな差があると言う事なんだろうが。
因みに、そういった細かい力の差を感じ取れるようになったのも、コントロール力が上がったお陰だ。
どうやら紋章は、感覚の強化などにも影響している様である。
「胸を貸してやる。喜べ、雑魚共」
「調子に乗るな!!」
俺の挑発に、二人が同時に突っ込んで来た。
見立て通り、そのスピードはアホウの足元にも及ばない。
「くそっ!」
スピードも遅ければ、技術も大した事がない大ぶりの一撃。
当然そんな攻撃をくらう訳も無く。
隊長の剣を躱しつつ、その隙だらけの脇元――身に着けている鎧の隙間――に拳を叩き込んでやる。
「ぐぁあ!!ぐうぅ……」
俺の一撃を受けて、奴は脇を押さえて蹲る。
うん、想像の倍ぐらい弱い。
弱すぎる。
「た……隊長!!」
隊長が目の前で一撃でやられたのを見てビビったのか、後に続いていたレンガが慌てて動きを止める。
想定していない事態に見開かれた目と、驚愕の表情。
そこに俺は容赦なく拳を叩き込んだ。
「ぎゃっ!」
「これで全員終了だな。まだやる奴はいるか?」
パンパンと手をはたき、そう尋ねるが返事は返ってこない。
まあ隊長以外は気絶しているし、当の隊長も脇が痛すぎてそれ所ではない様なので当たり前か。
「まさかこうも簡単にのしてしまうとはねぇ……」
全てが終わってから馬車のドアが開き、フジさんが降りて来る。
驚いた様な口調ではあるが、その表情は素なものだ
まあ予想の範囲内って事だろう。
こいつらと揉めるのも含めて。
「魔宝玉を貰ったお陰さ」
流石にFランクのままだったら、Dランク共はともかく、Cランクの2人をワンパンとはいかなかっただろう。
紋章の力は偉大だ。
バンバン魔石や魔宝玉を集めたい所である。
「まあこれで、この子達ももう貴方には噛みつかないだろうね」
代理人の件で不満を持っていた奴らへの、お仕置きに利用されたっぽいな。
俺は。
まあ別にいいけど。
「ほら、起きなさい」
婆さんが気絶している奴らを叩き起こして周ると、全員が直ぐに目を覚ました。
大きな怪我はしない様に、ちゃんと手加減したからな。
あんまり酷い怪我をさせると、護衛として問題が出てしまうし。
ま、俺とフジさんがいれば他の護衛なんていらない気もするが……
仮に俺達二人で対処できない様な相手が襲って来たとしても、こいつら程度じゃ何の足しにもならないだろう。
いる必要性が、冗談抜きで皆無である。
「これで分ったね。お嬢様が何故タゴサクを代理人にしたかを」
「はい!タゴサク様!申し訳ありませんでした!!」
婆さんに一列に並ばされた護衛達が、一斉に俺に向かって深く頭を下げた。
不服そうな態度をとる者はいない。
バトラーにとっては強さが全てだ。
だからEランクの俺の事を、奴らは馬鹿にしていた。
だが嫌という程実力差を見せつけた今、俺に不平を示す奴はいない。
「では、出発するよ!」
揉め事が収まったので、改めて出発だ。
もちろん俺は走りで。
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