始まりの季節 ~新たな出会い3~
HRでは主に明日以降の主なスケジュールの伝達だった。
これは俺達にとって重要な情報だったので漏れなくメモをした。
後でこれを春山さんに提出し、今後のスケジュールを決めよう。
脳内でそんな考えをしているとHRが終了した。
教室内には喧噪が戻り、雰囲気は一気に放課後になった。
たった今メモした内容をスマホのメモ帳に写し、特に重要な部分をトークアプリの春山さんとのチャット内で報告した。
取りあえず今日学校でやる事は終わったので机の脇に掛けられたリュックを手に取り、立ち上がると同時に背負った。
俺が立ち上がるタイミングでなずなも起立した。
さすがに数分経っているからか、なずなの表情は特に照れとかは無いように見受けられる。
というか、立つタイミングが良すぎて目が合ってしまった。
俺が「帰るぞ」とアイコンタクトを送るとなずなも「OK」と首を縦に振った。
そうなれば後は帰るだけ、今朝のように囲まれる前に帰宅したかったので足早に教室を後にしようとした。
その時、
「橋本」
と、相馬に呼び止められてしまった。
振り返ると俺の前に立っていた。
「どうした?」
そう聞いてみる。
「その、もし良かったら今日一緒に昼飯でもどうだ?」
少し照れくさそうにしている相馬。
その様子が少し可愛く感じてしまった。本来なら二つ返事で同行したい所だ。
しかし、
「悪いな。今日はこの後用事があってな」
俺は相馬からの誘いを断らざる得なかった。
「ごめん!今度埋め合わせをするからまた誘ってくれ」
申し訳なさそうに胸の前で手を合わせた。
断るのには少し軽すぎたか?高校生からの誘いの断り方が分からない。誰か、ヘルプに来て欲しい。
すると、相馬はニコッと笑ってくれた。
「用事か~なら仕方ないな」
相馬の態度からしてこの断り方で間違ってはいなかったようだ。
心の中でホッとしていると、「ただし!」と言葉を付け加えた。
「今度誘ったときは乗ってくれよな」
「勿論!約束は必ず守るよ」
「ならオッケーだ!さっ、なずなちゃんが廊下からチラッとこっちを見てるから早く言ってやれ」
そう言いながら俺の背中を押してきた。
「おう!ありがとな」
俺は背中越しに手を振り、なずなの待つ教室後方の扉へと向かった。
教室を出るとなずなが隣に来て一緒に歩き出した。
「あーあ、ご飯行きたかったな~」
開口一番に出た言葉がこれだよ。
「そうだな、誰かさんの出来が良ければ行けたかもな」
さっきのやり取りもあり、少しイラッときたので棘のある返事をしてやった。
「ぐっ……それを言われると何も言えない……」
効果はバツグンだ!なずなは苦笑いをしながら申し訳なさそうな表情をしている。
「ま、今後お誘いがあったときに参加出来るように仕事はなるべく早めに終わらせておこうな」
「うん!ダンスも今日で完成させる!!」
階段に差し掛かったところでなずなは小さな拳を作っていた。今日も気合い十分のようだ。
普段は見せないもう1人のアイドル常葉なずなの顔だ。強豪校の少年のような情熱と夢を叶えたいと思う希望の眼差しを兼ね備えた顔。ついさっきまで照れ隠しをしていたなずなはもうここにはいなかった。
「そしたら、早く帰るか」
「勿論!」
そう言うと、うわ~と階段を駆け下り始めた。
俺も彼女の後を追う形で階段を駆け下りた。
この分なら今日中にいけそうだな。そう思わせるには充分過ぎる元気の良さである。
人気者 ~あの人に追いつきたい~ 親知らずの虫歯 @oyashirazunomushiba
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