始まりの季節 ~新たな出会い2~
「またか」
それに近づきながら毒を吐く相馬。
「どうした?」
その言葉の理由が全く分からないためたまらず聞く。
「朝学校に到着したときもあれが出来てたんだよ」
相馬は顎を集団に向けて突きつける。
「時間もギリギリだったし、凄くウザかったからなんなのって思いながら隙間から覗いたら」
「覗いたら?」
「中でお前となずなちゃんが話をしていたんだよ」
相馬は今朝のことを思い出していたのか俺を睨んでいた。
「なんかごめん」
「別に、怒ってはないさ入学式初日から遅刻ギリギリにやってきた俺が悪いんだし。それに始業には間に合ったから大丈夫だ」
そう言って貰えると助かる。
やっぱり迷惑だよなこれ。今、4組の前まで来たけど入室するには人をかき分けないといけなそうだ。今朝も横目で目に入っていたがどうにかする必要があるかも知れない。
人と人の間から中を見るとやはり視線が集中している所にはなずなの姿があった。
今は隣の席に座る女性と話をしているようだった。
早速友達が出来て良かったなと心の中で安心している。こういう所が彼女を妹のように扱っているのだろうか?本人には伝えない方が良い言葉かもな。
なんとか思っていると隣で一緒になって覗いている相馬が呟いた。
「それにしても可愛いな。あんな子と普通に喋れるお前が憎い」
言葉の尻に若干殺意を感じた。しかし、それには慣れているので特に気にしない。
「1週間も一緒に過ごせばこっち側だろ?」
「ま、それは言えてる」
一緒になってくすくす笑いながら集団の1番後ろに移動した。
さて、どうしたものか。このままの状態でも後数分もすれば先生が来て集団はなくなるだろう。
しかし、いつ先生が来るか分からない状況でずっと廊下で立ち尽くしているのは面倒だし疲れる。ぶっちゃけ大役を終えた後だからゆっくり椅子に座りたい。
そうなると満員電車で駅に降りるときのように人混みを割って入るしかないか。
考えるのも面倒くさいのでさっさと声を掛けちまおう。
そう思い、俺達から1番近い所にいる生徒に話しかけようとした。
その時、人混みが真っ二つに分かれた。
誰もいなくなった空間を見るとちょうど扉の中央になずなが立っていた。
「どうした?」
予想外の出来事に理解が追いつかない。
「なんとなく。そろそろ大輝が戻ってくるかなーって見に来たらいた。それだけだよ」
口角を上げてそう言うと俺の腕を掴んで教室の中へと連れ込んだ。
俺は彼女にされるがままに中に入った。
相馬も俺の後ろにべったりくっつきちゃっかりと中に入っていた。
俺達が教室の中央に移動する頃にはもう扉は生徒で埋め尽くされていた。
その全ての人の視線が俺となずなの手に集中していた。
さっき相馬から言われた憎悪をこいつらからも感じる。ちょっと睨みすぎだな~
そんなことを扉を見ながら思っているとすぐに俺達の席の近くまでやってきた。
なずなは俺の手を離した。ここからは自分で動いてと促すように素早く自分の席に座って朝と同じく俺の机に頬杖を突いていた。
なずなに圧力を掛けられるがままに席に座る。
するとなずなは頬杖をやめて、隣に座る女性へと俺の視線を誘導した。
「紹介するね!この子は白土すみれちゃん。入学式で隣になって仲良くなったんだ~」
終始ニコニコしていたなずなと若干緊張気味の白土と紹介された女生徒を交互に見た。
黒で長めの髪の毛を背中で伸ばした白土さんの第一印象は清楚系アイドルだった。
俺がアイドルに毒されすぎている例えだ。
内心やべーなと思っていることも知らずに、彼女は背もたれのある椅子で背筋をピンと張り、手を膝の上で添えて真っ直ぐ俺のことを見ていた。普通に可愛い。
なずなが喋り終えるタイミングを計っていたらしい白土さんはゆっくりと口を開いた。
「は、初めまして!白土すみれです!よ、宜しくお願いします」
まるで就職活動の面接に来た学生のように礼儀正しくお辞儀をしてくれた。
これは俺もキッチリと返事をするべきだ。そう思った俺も姿勢を正して、白土さんが顔を上げるタイミングで喋り始めた。
「初めまして。橋本大輝です。さっきステージに登壇したので分かるかな?」
「はい!先ほどは大変お疲れ様でした!!とても立派な挨拶でしたよ」
「あ、ありがとう」
真っ直ぐ俺を見つめながら褒めてくれた。
ここまで真っ直ぐな目で褒められたことがないので少し照れる……
「お疲れ様大輝!!!!」
テヘヘと照れている最中になずなの大きな声が耳の中でキーンと響いた。
「ウッサい!!耳の側で大声出すな!!」
さすがに鼓膜が破れると思ったので顔をしかめ、馬場チョップをなずなの脳天に食らわしてやった。
「痛!!!何すんのさ~」
頭を押さえながら「う~」と唸りながら俺を睨んでいた。
「お前が耳の側で叫ぶのが悪い!!」
言い終えてフンとそっぽを向いた。
「お前ら本当にただの幼馴染みなのか?」
一連のやり取りを俺の隣の席で見ていた相馬とちょうど目が合った。
彼の表情は若干引き気味。
「いつもかな?さすがに馬場チョップは久しぶりにやったがな」
言いながらなずなのことを見返す。
なずなはまだ頭を押さえており、変わらない表情で俺達のやり取りを見ていた。
「で、そちらさんは?」
口調も怒っている。
聞かれたものは答えるのが礼儀。
俺もなずなに習って相馬が注目されるように手で誘導した。
「こいつは相馬隆二。さっき廊下で出くわして仲良くなった」
「どうも、相馬です~」
俺の紹介に続いて爽やかな笑顔をなずなと白土さんに向けていた。
「こ、こんにちは……」
「宜しく~」
白土さんは少し戸惑いながら、なずなは頭から手を離し、笑顔で相馬に手を振っていた。
「やば、なずなちゃん可愛すぎ……」
天然で作られたなずなの笑顔に相馬はやられそうだ。
「ありがと~」
その相馬に追い打ちの感謝攻撃。甘い声でお礼とか言われると何もしていないのに嬉しくなっちゃうやつだ。
相馬のHPは残り僅か。とどめを指せば新規獲得だ!
「私、アイドルなんだけど。こんな感じの挨拶で大丈夫かな?友達とか出来るかな?」
トドメは、アイドルでは無く新しく出来た友達としての質問だった。
なずなも自身がアイドルであり、異質な存在であることを認めているらしい。でなければ経った今出来た友達にこんな質問をぶつけるはずが無い。
「勿論。大丈夫だと思う。けれど笑顔が可愛すぎるかな?女子は分からないけど橋本以外の男子はその笑顔を正面から食らったら死んじゃうと思う」
「そ、そうなんだね!可愛すぎるか……私ってそんなに可愛いの?」
「何言ってんの!?なずなちゃんは十分過ぎるくらい可愛いよ!!」
なずなの疑問形に答えたのは白土さんだった。興奮気味の彼女は無意識になずなの手を取っていた。
「特に相馬君も言っていたけどその笑顔!アイドルだけじゃ無く、日本人全員が束になってもその可愛さには勝てないと思うよ!!」
口早にまくし立ててそう言うと白土さんは俺の方を向いてきた。
「ね!橋本君もそう思うでしょ?」
「お、おう……」
勢いに押されつい生返事が出てしまった。
「そ、そうなんだ……私ってそんなに可愛いんだ……」
俺の返事を肯定と取ったのかなずなは頬を赤くし、俯いてしまった。
「あらあら~なずなちゃん。橋本に可愛いって言われて照れてるのか~」
相馬が俯いたなずなを冷やかし始めた。さっきHPギリギリまで削られていたとは思えないニヤけ面である。
「べべべべ別にそんなんじゃ無いし!!!」
顔を下に向けながら声を大きくするなずな。
「うっ、なずんちゃんその顔は怖い……」
と思ったら相馬にだけ見えるように睨み付けていたらしい。
相馬の表情が引きつっている。これはこれで別のHPバーが削られたようだ。
「さて、そろそろHRが始まると思うから元に戻っておいた方が良いぞ」
これ以上なずなが辱められるのを見るのも嫌だし、初日からギスギスした関係性を生み出したくないのでこの会を一旦お開きにしようと思った。
すると、それぞれがそれぞれの返事をして席に戻った。
正面にはプンプンと怒りながら机に突っ伏して居るなずな。その横にはなずなの怒っている姿にすらときめいている白土さんが座っている。この子はあれだな、隠れオタクだな。
そして、俺の右隣ではさっきから俺の耳にひそひそと小声をぶつけてくる相馬が座っている。
「なずなちゃん怒っちゃったかな?大丈夫かな?嫌われてないかな?」
「大丈夫だと思うよ。多分明日には忘れてると思うから今日はそっとしておいてやれ」
ぶっちゃけウザかったのでそれなりの事を言って相馬を制した。
まあ、俺が言ったことは間違ってないから安心してくれ相馬。
俺の周囲が静かになったところでタイミング良く先生が入室して来た。
本日最後のHRの幕開けである。
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