第12話 逃げるんだよォォォ!

 俺は頭の中でシミュレーションを繰り返す。もし集まったゾンビの数がこれ以上増えないのであれば、戦って勝てる可能性もゼロではない気もする。タコ頭を倒したロッドが今手元にあるからだ。

 でもゾンビの数はこれで全てじゃない。騒ぎを起こせばきっとたくさん集まってくるだろう。そう考えると、この場合の対処方法はひとつしか思い浮かばなかった。


「マイ、ここは強行突破だ」

「え、うん」


 俺は戸惑う彼女の手を握って、ゾンビの群れの中に突っ込む。さっきまで激闘を繰り広げて体力的に消耗しているはずなのに、俺の足はとても軽く想像以上の早さで走れていた。

 そのためか、ゾンビ達は俺達の動きに対応出来ない。こうして俺達は何のダメージも受けず、無事にゾンビ集団からの脱出に成功する。


「はは、やった!」

「嘘みたい。ハルト君すごい!」


 さっきまでの恐怖が消え去り、俺達は自然と笑顔になった。俺が引っ張る形になったこの脱出劇だけど、彼女もしっかりついてきている。もう手を離しても良さそうだ。


「マイさんも結構足が速いんだね」

「私も不思議なんだ。いつもならもう疲れているはずなのに、まだまだ平気なんだよ」

「え? 何でだろ?」

「理由なんて今はいいよ。それよりこれからどうするの?」


 確かに元気バリバリになっている理由は、襲われずに済むようになってから考えたのでもいいだろう。この状態は俺達にとってメリットしかないのだから。

 これからどうすればいいかだけど、一番いいのはやはり交番に逃げ込むと言うものだろう。ただ、今逃げているエリアは初めて来た場所だ。土地勘が全くない。俺はすぐに周りを見渡して、安全そうな場所を探す。


「神社がある! とりあえずあそこに逃げ込もう!」

「分かった!」


 ゾンビと言えば一般的に不浄な存在だ。神社とは相性が悪いだろう。そう言う単純な連想ゲームだったものの、この俺の提案に彼女はすぐに乗ってくれた。嬉しくなった俺の足は軽く弾む。

 神社は山の上に本殿があって、辿り着くには少し多めの石段を登らないといけなかった。ただ、体力満タン状態の俺達はこの程度の障害は軽々と乗り越える。


「着いたどー!」

「やったー!」


 辿り着いた山の上にあったのは、見慣れた神社の光景。目前にあったのはメインの本殿だ。特に何の変哲もなく、よくある無人の神社のように見える。地元の氏神様と言ったところだろう。

 静かで人気は全然ないものの、とても澄みきった気配がする。


 俺の予想が当たっていたのか、本殿の周りにゾンビはいない。そもそも、参道に入った時点で不穏な雰囲気は消え去っていた。神域はゾンビを寄せ付けない結界になっているのかも知れない。俺達はようやく落ち着いて休憩をする事にした。

 本殿に上る階段に腰を下ろして、俺達は暗くなりかけている空を見上げる。


「一番星が出てる」

「あ、本当だ。もうすぐ夜になっちゃうね」


 こうして2人で神社にたたずんでいると、さっきまでゾンビに襲われていた事が嘘みたいだ。ゾンビに襲われたり謎のビルで危険な目に遭っていた事も、本当は何かしらの幻だったんじゃないかという気すらしてくる。

 神社の周囲も恐ろしいほど静かで、まるで何もかもが終わったみたいだった。


 俺は逃げ込んだ本殿を改めて確認する。もしかしたら、ここは特別な神社なのかも知れない。俺の興味は偶然目に飛び込んだだけのこの場所に向けられた。



 神社の本殿に入ってみる

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649104150199

 外の様子をうかがう

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649105081460

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