第14話 現地解散
「道は分かる?」
「駅ってあの灯りが多い方でいいのかな?」
「そうそう、あのまぶしい辺り。そんなに遠くないね。多分この道をまっすぐ行ったらいいんじゃないかな?」
「分かった。じゃあ行ってみる。ありがとね」
送って欲しいと言われたら送るつもりではあったけど、マイは1人で納得してスタスタと先に歩いていった。その後姿を眺めながら、今更送っていくよと言えるはずもなく――。
彼女の姿が見えなくなったところで、俺も自宅に戻る事にした。
さっきまでゾンビに襲われていたのが嘘みたいに、そこからの帰路は何のトラブルも発生しなかった。何も考えずに歩いているだけで、あまりに呆気なく自宅に到着する。何も起きずに辿り着いてしまったため、しばらく周囲を確認して危険がないかじっくり確認してしまったほどだ。
「あの子、ちゃんと家に帰れたかなぁ。ま、俺も家に戻れたし大丈夫だよな?」
玄関前で深呼吸して気持ちを落ち着かせると、俺は思い切ってドアを開ける。そこに広がっていたのは見慣れた家の姿だった。家族が別の何かに変わっていると言う事もなく、帰りが遅かった事で発生した母親の小言を嬉しく聞く自分がいた。
軽く叱られた俺はその足で自室に戻る。そのままヒョロヒョロと吸い込まれるようにベッドにダイブすると、さっきまでの疲れがスーッと浄化されていくような気がした。
「ああ~。いつもの日常が天国だったんだなあ~」
しっかりメンタルを回復させた後はいつものルーティーン。必要最低限の勉強をして、テレビを見て、録画した番組を見て、晩ごはんを食べて、ネットを巡回して、お風呂に入って、そして、就寝――。
「今日は本当に散々な目に遭ってしまったぜ。でも誰にも話せないな……」
寝る前は悪夢を見てしまうんじゃないかと不安になってしまったものの、気がつくとぐっすりと深い眠り落ちてしまっていた。まるで何もかもを忘れるみたいに――。
翌朝、目覚まし時計のアラームに起こされた俺は思いっきり背伸をびする。
「ふあ~あ。悪夢も何も見なくて良かった。でも何で悪夢に怯えてたんだろ?」
目覚めた俺は、寝る前に悪夢に不安になっていた理由を忘れてしまっていた。どうしてそう考えていたのか記憶をたぐるものの、何も思い出せない。しばらく考え込んでいたところで、貴重な朝の時間を無駄に消費していた事に気付く。
「ヤッベ! 遅刻しちまう!」
スマホで時間を確認した俺は急いで朝の支度を始める。今日もいい天気だ。それだけで何故だかとても心地良い。きっと今日もくだらなくて退屈で最高な時間が過ぎていくんだろうな。
記憶リセットエンド
あとがき
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330651643883383
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます