第17話 帰り道は分からない
俺達が困っているところに突然現れた猫。こんな偶然があるだろうか? いや、ない。問題はこの猫が善意で俺達の前に現れたのかどうかだ。マイはそう思っているようで目を輝かせているものの、俺はここで冷静にならなきゃいかんと思う。
そもそもこの謎の世界はどう言う世界なのか、まずそこが分からない。分からない時に現れた存在は、その本質が分からない内は安易に誘いに乗らないのが賢明だ。そうに決まっている。
俺は猫の様子をじっくりと見定める。どう見ても普通の猫にしか見えない。これは逆に怪しいだろう。普通の猫は初対面の人間を誘うような行動は取らない。この世界ではどうだか分からないけど、俺達の元いた世界ではそうだった。
じゃあ、こっちの世界のも本来はそうじゃないだろうか? この俺の考えを否定する事も現時点では出来ない。都合が良いと言うのが逆に怪しいんだ。
俺は猫についていこうとする彼女の肩を掴んでそれを止める。
「この猫怪しいよ、無視しよう」
「えー! そんな事ないよ!」
「でも俺は信頼出来ない。もう少し慎重に行動しよう」
「まぁ、ハルト君がそう言うなら……」
マイは渋々俺の言葉を受け入れてくれた。スタスタと歩く猫に別れを告げて、俺達はこの街の謎の真相を求めて探索を再開する。適当に進み、適当に曲がり、適当に観察し続けたものの、コンビニっぽい建物は見つからない。書店らしき建物もない。
ずっと何の変化も起こらない事で、俺は悪夢のようなこの世界にうんざりし始めていた。
「ここまで歩いていて、どうして誰にも出会わないんだ……何で誰も歩いていないんだよ!」
「本当だよね、やっぱ変だよ」
俺の咆哮に、彼女も理解を示してくれた。俺は共感してくれた事が嬉しくて自然に笑顔になる。
この時、どうやらマイは俺とは違う考えを持っていたようだ。
「やっぱあの時猫について行ってれば……」
「またそれを言う……。あんなタイミングで猫が現れるって怪しいじゃん」
「でも何か起こったかも知れないよ!」
俺達はさっきの猫の事を巡って一触即発な雰囲気になる。俺もここで喧嘩なんかしたくないし、話がこじれて彼女を1人にするのも嫌だった。そこで、何とかマイをなだめようと自分の意見を曲げる事にする。
「さっきは……俺が悪かったよ。ごめん」
「急にどうしたの?」
「だって、君が怒っているか……うわあああ!」
懸命に謝罪モードで機嫌を取ろうとしていたところで、俺の目にあの幽霊が映ってしまう。やはりこの世界にもやってきていたのだ。俺は逃げ切れていなかった事実を知ってショックで動けなくなってしまう。大声を上げた事で彼女も幽霊の接近に気付き、俺の腕を掴んでブルブルと震えて思考停止していた。
「あわわわわわわ……」
俺達は声と体を震わせる。ただ、何もしないまま幽霊の好きにさせる訳にはいかない。俺は勇気を振り絞ってロッドを伸ばした。そして、ありったけの気合を振り絞って幽霊に攻撃を仕掛ける。
「う、うおおおおおお!」
幽霊には実態がない。ロッドでの攻撃も当然のように空振りしてしまった。幽霊はニタリと不気味な笑みを浮かびると、俺の身体から魂を引き抜いてしまう。俺の身体はバタリと倒れ、全く動かなくなった。魂が抜かれたのだから当然だ。その後、マイの魂もあっさりと抜かれてしまう。
俺達の魂を引き抜いた幽霊は、満足したのかそのままどこかに消えてしまった。
幽霊にも見放された俺達はそれぞれ自分の体に戻ろうとするものの、どうやっても戻れない。やがて、俺達もまた魂から幽霊に変化していく。
こうして幽霊になった俺達は元の世界に戻る事も出来ず、2人でこの知らない世界を彷徨い続けたのだった。
幽霊に襲われて同じ幽霊にされてしまったエンド
もう一度最初から
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648990233938
このエピソードの最初から
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649068856685
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