第13話 神社の御神体
もしかしたら、この神社は何か特別な神社なのかも知れない。その思いが強くなった俺は立ち上がる。何も言わずに動いたので、マイが不思議そうな顔で俺を見上げた。
「この中、入ってみよっか?」
「え? バチが当たっちゃうよ」
「大丈夫。こう言うのって入っていもいいんだよ。興味ない?」
「そうなの?」
俺は本殿で神職の人がお祓いをするのを見た事があるから、この中に入っていい事は知っていた。だからって勝手に入っていいかどうかは分からないけど……。でも荒らさなければ何も問題はないだろう。中のものを動かさなければバレないだろうし。
そもそもここは無人の神社だ。勝手に入ったところで怒ってくる人はいない。
マイは全く乗り気ではなかったものの、完全に拒否していると言う風でもない。まず俺が先に入ればついて来てくれるだろうと、靴を脱いで本殿の中に入った。外ではもう星が出ているので、中も当然真っ暗だ。
大きな神社の本殿なら照明もあるのだろうけど、小さな無人の神社にそう言うのがあるようには見えなかった。
「暗っ! もっと明るい内に来たら良かった」
「あでも、奥に何かあるね。御神体かな」
後から入ってきたマイは、迷う事なく本殿の奥に向かって歩いていく。俺は好奇心でちょっと入ってみたかっただけなので、彼女が積極的に動くとは思わなくて困惑した。
「ほら、鏡があったよ」
「ちょ、中のものを勝手に触るとかは……」
マイが持っていたのは神社に祀られていた鏡。神職の人が祈りを捧げている対象だ。そんなのを勝手に持ち出したらそれこそバチが当たりそうだ。
さっきまで怯えていたのに、どうして今の彼女は楽しそうに笑っているのだろう。
「何かね、この鏡に呼ばれた気がしたんだ」
「えぇ……」
俺はマイが変わってしまったと感じて、言葉を失う。霊感とかそう言うのを前から持っていたとでも言うのだろうか。思い当たるフシはある。ビルが爆発した時に彼女が発した謎の光だ。
もしかしたら、マイは――。
「うわ、ついに来ちゃったよ」
「え?」
鏡を持った彼女が何らかの気配を感じ取る。その時の表情から、俺はこの神社に何が起こっているのかを把握した。すぐに本殿を出て外の様子を確認すると、案の定さっきまで俺達を追いかけていた化け物が顔を出していた。
「くそっ! ゾンビだ! やつらここまで来やがった!」
俺は早く逃げようと思い振り返る。しかし、背後にいたはずのマイの姿がどこにも見当たらない。俺は自分の目がおかしくなったのかと、まばたきをしたりまぶたをこすったりした。
「大丈夫。私に任せて」
「うぅわっ!」
全く気配を感じさせずに彼女が隣に立っていたので、俺は驚いて変な声を出してしまった。ゾンビに対しては逃げるしかないのに、何故マイはこんなに落ち着いているのだろう。
俺の視線が彼女に釘付けになっていると、マイは手にしていた鏡を両手でしっかり支えるように支える。まるでゾンビに鏡を見せるように。
「不浄なる者共よ、消え去れ!」
「うおっまぶしっ!」
彼女の言葉と供に鏡が光り、ゾンビ達が消滅していく。鏡の光は光量を増し、ものすごい強いフラッシュが俺の視界を消した。すぐに目をガードしたので詳細は分からなかったものの、感覚ではこの周囲一体を光が包んだような気がする。
それによって何がどうなったのかは俺には分からない。ただ、さっきまで感じていた不快な気配はもうすっかり消えていた。
「鏡の光でゾンビ達は全て消滅したよ」
「え? そうなん? てかマイさん、そんな力があったんだ」
「力って言うのはよく分からない。無我夢中だったから」
マイは真顔で俺の顔を見る。本人はそう言うけど、どう考えても無我夢中って雰囲気じゃなかった。何かに操られていたような、それとも別人格が目覚めたような――ただ、少なくとも今は正気に戻っているようだ。
彼女が神社の鏡を使って何かをしたのは間違いなく、だからさっきの言葉も不思議と信用出来た。きっと本当にゾンビ達は消滅したのだろう。
ソンビがいなくなればもう事件は解決だ。時間も時間だし、早く家に帰らなければ。聞けば、マイも俺と一緒で自分の家に帰ろうとしていた。取り敢えず俺達は一旦顔を見合わして、並んで神社の石段を降りる。
そこから神域を出て一般道にまで出たところで、俺は彼女の顔を見た。
マイを送っていく
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649104238610
現地解散してまっすぐ自宅に帰る
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649104791134
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