第14話 一難去ってまた一難

 既に夜になっていて、周りはもうすっかり暗くなっていた。地元の治安は良い方だとは思うけど、流石に真夜中に女の子を1人で歩かせるのは気が引ける。

 俺は深呼吸して気持ちを落ち着けると、出来るだけ表情を柔らかくして隣で左右を確認していたマイの顔を見た。


「駅まで送るよ。危ないし」

「本当? 有難う!」


 彼女の表情がパアアと明るくなる。そう言えば、この街に越してきたばかりだったんだよな。知らない街で知らない場所にいると言うのは不安でたまらないだろう。俺は改めていい選択をしたなと自己満足に浸った。

 とは言え、俺自身この場所は初めて来たエリア。どう行けば知ってる場所に辿り着くかは何となくは分かるものの、確証は持てない。


 俺は道を知らないのを悟られないように、努めて明るく振る舞う事にする。黙っていると色々と勘ぐられそうなので、くだらなくても色々と話しかける事にした。


「えーと、もうこれで安心だよね」

「そうだね。ハルト君もこの近くに住んでるの? 徒歩だしそりゃそうか」

「近くっちゃ近くだね。マイさんは遠い?」

「そんなには。家は駅の近くだから駅まで行けばもう大丈夫」


 駅の近くと言うのがこの近くの駅の近くなのか、駅から電車で移動した別の駅の近くなのかはその返事からは読み取れなかった。まぁとにかく駅まで送れば、それで自動的に大丈夫になるのだろう。あの辺りまで行けば危険な事もまずないだろうし。

 雑談はそこから趣味の話とか、好きな食べ物の話とか、オススメのお店の話とかに移る。彼女は意外とお喋りで、俺は相槌を打つくらいになっていった。


「美味しいラーメン屋さん知ってる?」

「好みに合うか分からないけど、よく行くお店ならあるよ」

「今度教えて!」

「あ、じゃあ連絡先を……」


 何となく流れで俺達は連絡先を交換した。その時、またスマホの電波が圏外になってる事に気付く。ゾンビを浄化した時に普通に戻っていたのに。

 この異常事態に寒気を覚えた俺が無意識に振り返ると、背後に和服を着た半透明の誰かがいた。顔は黒髪で前髪を長く伸ばして両目を隠し、後ろ髪もやたら長い。背の高さは俺達と同じくらいで変な存在感があった。下半身が完全に見えないのは浮いているからなのか、足はあるけど透けているだけなのか――。


 この幽霊っぽい存在を確認した俺は驚いて体が硬直する。化け物やゾンビがいなくなったと思ったら、今度は和風の伝統的なおばけ。一体どれだけのホラーが俺達を襲うのだろう。

 この幽霊、俺だけにしか見えないものかと思ったら、マイにもハッキリ見えていたようだ。彼女は楳図かずおの漫画みたいな表情で叫ぶ。


「キャァーッ!」

「おうわああ!」


 その叫び声につられて、俺も大声を出してしまった。2人の叫び声が気に触ったのか、幽霊は真っ白な生気のない顔で、無言のまま襲いかかってきた。


「あばばばばばぁ!」

「「ギャアアー!」」


 今まで幾度となく修羅場をくぐり抜けてきたけれど、この幽霊には全く勝てる気がしない。俺の直感は逃げろ逃げろと叫んでいた。逃げて逃げ切れるか自信はなかったものの、戦うのは無謀だと直感は訴えているのだ。

 マイは恐怖心で戦意を消失して俺にしがみついている。俺はどうすればいい――?



 それでも攻撃する

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649104300520

 やっぱ逃げる

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649104348759

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