第15話 幽霊に立ち向かえ!

 俺は背後の幽霊に向き合った。勝てるかどうかは相手をよく見てからだと思ったからだ。今の俺にはタコ頭の化け物を倒した武器のロッドがある。あのタコ頭には有効だった。目の前の幽霊も似たようなものならダメージを与えられるはずだ。

 俺はロッドを伸ばして臨戦態勢を取った。俺が戦う意志を見せたところで、幽霊の動きはピタリと止まる。初めて目にした武器を見てビビってくれているのだろうか。


 和服の幽霊は女性だ。きっと戦う事にも慣れていないと思う。そもそも、俺達を襲う、いや、呪ってくる理由がない。日本の幽霊は基本無差別に襲ったりはしない――しないと思う。しないんじゃないかな。まちょっとは覚悟しおいた方がいいか。

 俺がロッドを構えていると、しがみついていたマイが強引に腕を引っ張った。


「勝てないよ! やめて! 逃げよ?」

「でもゾンビと違ってアイツ1人しかいないみたいだし……逃げたって」

「……お前、アタシを殺すんか?」

「ヒィィィィ!」


 さっきは謎の奇声を上げていた幽霊が突然普通に喋り始めたので、逆に俺の方が奇声を上げてしまう。すごく念のこもった重い言霊は、俺の戦意を簡単に打ち砕いた。


「お前に殺せるんか? ああ?」

「あ、あの……帰ってくれません? 俺らも何もしないんで」

「武器を構えておいて何眠い事を言うとる。こうなったら殺し合いしかないじゃろうがぁ……」

「えぇ……」


 どうやら戦いは避けられないらしい。戦うつもりでロッドを伸ばしたけど、最初から話し合いで臨めば別の世界線もあったようだ。俺は最初の選択肢を間違えた事を激しく後悔する。

 それに、戦うと言ってもどこをどう攻めればいいのだろう。見た目が人間の女性なだけに、俺は最初の一撃を繰り出せないでいた。


「来ぬのならアタシからじゃあ!」


 幽霊が攻撃を再開する。和服の袖から伸びる指の爪が伸びた。つまりそれが幽霊の武器なのだろう。幽霊はスーッと音もなく俺に近付き、グワッと腕を振り上げた。俺もロッドを構えて迎撃体制に移る。

 次の瞬間、幽霊の背後のオーラがどす黒く染まった。


「舐めんじゃねえ!」


 幽霊の腕が振り下ろされ、俺が握っていたロッドは呆気なく弾き飛ばされる。この幽霊、かなり戦い慣れている。きっと今までにいくつもの修羅場をくぐり抜けてきていたのだろう。

 圧倒的に経験不足の俺は、幽霊の隙を生じぬ二段構え攻撃で呆気なく弾き飛ばされた。


「ぐわあああ!」


 幽霊の攻撃を受けた俺は道路を面白いように転がる。受けたダメージが大きくて、俺は体が動かせなくなった。全身のあちこちが痛み、意識も朦朧としてきた。俺がボロ雑巾のように傷だらけになったのを見て、マイが叫ぶ。


「ハルト君!」

「お前も同罪じゃあ!」

「ひぃ!」


 幽霊の標的がマイに移った。どうしてアイツは俺達2人を狙うのだろう。俺は薄れゆく意識の中で、この戦いを見届けようと無理やりまぶたを開く。


「覚悟せい!」

「わあああ!」


 マイが掲げたのはあの神社の御神体。彼女、アレを持って帰ろうとしていたのか。ゾンビの時は強烈に光って力を貸してくれていた丸い鏡。しかし、何故だか今回は全くその効果を発揮してはくれなかった。


「え? 何で?」

「お前ええ! 驚かすんじゃねえ!」


 鏡を目にした時に一瞬怯んだ幽霊は、何も起こらない事を確認して態度が一変する。うまく行かなくて焦っている彼女に最接近して、自慢の爪で引っ掻いたのだ。

 傷つけられたマイの皮膚から、赤い血が勢いよく吹き出していく。


「痛あああああい!」

「……!!」


 俺は声を張り上げようとして、それが出来ない事に気付く。


「これでお前らへの呪いは成就した。永遠にこの世を彷徨え」


 幽霊はそう言い捨てて、すうっと姿を消した。その顛末に呆気にとられていると、視点が不自然な事に気付く。周囲を見渡すと、俺の体が倒れているのが見えた。どうやら、俺の魂は肉体から離れてしまったらしい。焦って戻ろうとするものの、どうしていいか分からない。

 自分の状況が分かったところで、すぐに同じ攻撃を受けた彼女の方に視線を向ける。すると、向こうも同様に幽体離脱していているのが分かった。魂状態になったマイはかなり困惑している。


「ねぇ、私達……」

「死んでしまったみたいだ。ごめん」


 俺は彼女に向かって謝罪する。マイも戸惑いながら両手を振って否定のジェスチャー。その後、どうやっても自分の体に戻れなかった俺達は、そのまま幽霊として過ごす事になってしまったのだった。



 呪いを受けて幽霊になってしまったエンド




 もう一度最初から

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648990233938

 このエピソードの最初から

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649068856685

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る