第6話 学校を案内して印象をよくするぞ

 俺が考えをまとめている内に、彼女はスタスタと教室に戻り始めた。ここでモタモタしていたら、きっとずっと気まずいままで終わってしまう。チャンスの女神様は前髪しかない。俺は思い切って声をかけた。


「あのさ、折角だし学校を案内するよ」

「折角?」

「迷惑をかけたお詫び……みたいな?」

「あはは、何それ」


 何だか分からないけど、リアクションが受けたらしい。笑顔に出来た事がプラスに働いたのか、マイは俺の提案を受けて入れてくれた。まだ距離感はあるし、微妙に離れてはいたものの、素直に俺の案内について来てくれる。

 ほっと胸をなでおろして一安心した俺は、そのまま廊下を歩いて各教室の説明へと移る。えっと、職員室から一番近いのはっと――。


「ここが保健室。でも先生はいない事が多いから勝手に入って眠ってる人も多いよ。宮児嶋さんもしんどかったら勝手に寝ちゃっていいから」

「なるど、勉強になります先輩」

「いや、同じクラスじゃん」

「いえ、クラスで私はまだまだ新人ですから」


 どうやら彼女は少し面白い性格のようだ。少女漫画とかなら「オモシレーヤツ」とかそう言う反応をするべきなのだろうか。まぁ、そんなリアクションをするノリは無理だけど。

 休み時間ごとに案内をしていたので、放課後までには大体の場所を回る事が出来た。最後はお約束の屋上だ。学校によっては鍵がかかっている事も多いらしい屋上。ウチの学校は一応開放されている。我が校の自慢のひとつだ。


「私、学校の屋上って初めて!」

「屋上に行けない学校って多いらしいよね」

「そーなのよ。こんないい場所を開放しないだなんて勿体ないよね!」


 屋上から見下ろす校庭、街の様子。吹き抜ける風の感触。見上げると青い空。ロケーションは最高だ。屋上に行けるとは言え、実はあまりその事は知られていない。なので、今日の放課後の屋上には俺達しかいなかった。意識したら顔が熱くなってくる。


「こんな絶景スポットまで案内してくれて有難う。私、ハルトくんがクラスにいてくれて良かった」

「少しは役に立った?」

「立った立った! これからも仲良くしてね!」


 彼女の笑顔に俺は心を奪われる。と、同時に今後は俺のようなヤツがどんどん増えていくんだろうなと言う予感も感じていた。それと、親密なのはきっと今の内だけなんだろうなとも――。


 彼女と仲良くなってから、穏やかに日々が過ぎていく。初日こそマイは女子グループの中に馴染めていなかったものの、翌日からは積極的に話しかけていた。気が付くといつの間にかグループの中心になっていて、俺と話す機会もぐんと減ってしまう。

 そんな訳で彼女との心の距離はあまり縮まらない中、放課後に帰ろうとしたところでいきなり呼び止められた。


「ねえ、良かったらカラオケに行かない? みんな行くみたい」


 キキキ、キター! 青春のお約束、放課後カラオケ! 実は俺はこの手のお誘いは今までずっと断ってきた。それは自分の歌唱力に自信がないからだ。

 でも今回は、マイからのお誘いだ。これは、もっと彼女と親密になれるチャンスかも知れない。当然、俺の心は揺れに揺れる。



 そりゃ当然行くやろ

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648992463480

 いや、行かねえよ?

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648992559844

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