第6話 楽しいカラオケタイム
マイが俺の顔を見ている。ただの返事待ちではあるのだけど、こう言うシチュエーションで断れる男がいるだろうか? いや、いない! いないに決まっているッ!
「もちろん行くよ。みんなって?」
「ハルトくんを入れたら女子4人に男子3人かな。誘ってきたのは
「佐伯ってあの佐伯? ウチのクラスの?」
「そだよ。私、他のクラスの人はまだ全然知らないし」
ウチのクラスの佐伯と言えば、同じテニス部で真面目に部活をやっていたはずだ。そんなヤツが何故放課後すぐにカラオケに? 俺は思わず顎に手を乗せて考える。練習試合や大会もあるのに遊ぶ時間はないはずだ。カラオケのためにサボった? それが事実なら目的は何だ?
まさか――。
「メンバーはもう集まってる?」
「夢野ちゃんの周りにいるよ」
夢野と言うのは、マイと仲のいい女子の1人だ。彼女の席に目をやると、確かに男子と女子が集まっていて、その中に佐伯もいた。場所も確認出来たので、俺達もすぐに合流する。
「お待たせ」
「吉川も来んの? なら部活にも来いよ~」
「お前が言うな! どう言う理由でサボるつもりだ」
俺は佐伯に向かって言葉のナイフを投げつける。しかし、ヤツもそのくらいは想定内だったようでニヤリと笑ってあっさりとその手の内を明かした。
「それはだな、親戚が倒れたんだよ」
「お前んちの親戚は何人いるんだよ。まぁいいけど」
別に争うつもりもチクるつもりもなかったので、手口が分かったところで軽く小突いて水に流した。俺もずっとサボってるから人の事は言えない。これで全員揃ったので、早速みんなでカラオケボックスへと向かう。
7人の内訳は女子が全員仲良しグループで男子は俺と佐伯のテニス部繋がりと、もう1人はあまり交流のない石橋だ。彼はいつも本を読んでいるタイプで、カラオケを楽しみそうな雰囲気がなかった。
「石橋、カラオケなんてやるんだ」
「誘われたから……」
「得意な歌とかあんの?」
「アニソンなら歌える……」
石橋の独自の感性は俺とはあまり気が合わないかも知れない。ただ、アニソンを歌うなら、趣味は合うだろうか。俺が今期のアニメの話を切り出すと、案の定彼は思いっきり食いついてきた。基本早口で喋る石橋の話に俺が相槌を打つスタイル。
話も盛り上がってしまい、カラオケボックスにつくまで俺は石橋としか話をしなかった。
「うっし、着いた着いた」
このカラオケの発案者の佐伯が一番にお店に入っていく。俺達もすぐに続いた。受け付けで手続きをして早速指定された部屋へ。実際、俺もカラオケは数えるほどしかやった事がなかったのでほぼ初心者の体でみんなの後についていく。
「佐伯、お前慣れてんだな」
「いや、ここ最近ハマっちゃってさ。この春まで全然歌った事なかったんだけど」
「マジか」
そんな感じで、早速楽しい楽しいカラオケタイムが始まる。俺以外のメンバーはみんな歌いたがっていたのか、次々に曲を入力していった。この雰囲気なら俺は一曲も歌わずに済みそうだ。出来ればそれが一番いい。音痴は場を白けさせてしまうから。
集まったメンバーは全員歌が上手く、場の雰囲気もノリノリで盛り上がっていた。佐伯は90点台を出すし、石橋ですらアニソンで80点台をキープ。女子勢も軒並み高得点を連発していた。
「吉川~お前歌ってないじゃんか~! 歌えよ~」
調子に乗った佐伯からマイクを渡される。歌の上手い人が散々歌って場が温まっていたので、この流れなら俺も上手く歌えるかも知れない。マイも手拍子をして俺を歌わそうとしている。歌下手でコケてもギャグ扱いで笑ってくれるかも知れない。
俺は道化になってもいいと、歌える曲を入力した。もう後には引けない。おっし! 俺の歌を聞けええええ~っ!
「ボエ~!」
音程のズレまくった歌が室内に響き渡る。下手でも受けるだろうと踏んだ俺の予想は外れ、一気にお通夜状態になった。静まり返る中で何とか俺は歌いきり――そして、点数が発表される。15点だった。普通に歌ったら絶対に出ないであろう点数だ。
「ど、ドンマイ吉川!」
佐伯の励ましの声あたりから俺の記憶はない。誘われたカラオケで場を冷やしてしまった罪悪感もあり、結局俺はそれ以降一曲も歌わなかった。歌を急かされもしなかった。つまりはそう言う事だ。やっちまったァァァ。
この日のカラオケ以降もマイは俺に普通に接してくれてはいたけれど、心の距離は縮まる事もなく、俺も後ろめたさから積極的に出る事も出来ず――。
結局、そのまま普通の友達以上の関係に発展する事はなかったのだった。
そのまま仲のいい友達止まりエンド
https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330649435152366
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