「異次元を通り異世界転移してチート魔力をゲットし、お金のためにダンジョン攻略をしようと考えているただの会社員」(主人公本人談)が本作の概要をしっかりと教えてくれているような気がします。
上記したように、ある日突然異世界に飛ばされた会社員の主人公が、お金のために、チート能力を使って東奔西走する物語です。
一人称で進む物語は、視点である主人公の性格のお陰で時にコミカルさを交えながら、しかし、お金というどっしりとした土台のもと、進んでいきます。
この、銭ゲバと言ってもいいくらいお金に執着する主人公こそが、本作の魅力!
主人公の行動理念が目に見えない「正義感」ではなく「お金」であるだけに、話の目的がわかりやすく、主人公にとても共感しやすかったです。もちろんそれは本作の読みやすさでもあって、
「この主人公、次に何をやらかすの?!」
なんて思いながら、楽しんで読み進めることができました。
お金のためなら美少女すらもポイと売ってしまいそうな。そんな外道さは見ていてとても面白く、間違いなくぽんと与えられたチート能力で無双していくのに、全然嫌味じゃない。むしろこの主人公を引き立てる魅力として映るから不思議です。
自重? そんなの知りません。ちょっとした障害も力技で突破。最近では自重されがちなチートならではの“やり過ぎ”を存分に見せてくれて、迫る強敵に苦戦しながらも最後はきちんとチートする。そんな爽快感もきちんと感じられました。
しかし、読み進めていくうちに分かったのは、主人公がただの銭ゲバではないということ。
口は悪いながらも合間合間に面倒見の好さを見せたり。あくまでもお金のためとはいえ、困っている人を助けるムーブをしたり。お金だけにはとどまらない人情もあって…。そんなの、好感を持たざるを得ません!
だからこそ気になるのが、なぜ、主人公が、これほどまでにお金に執着するようになったのか。物語の節々で、彼の抱える闇の片鱗を垣間見ることができます。散りばめられた欠片を拾い集めれば、主人公の人となりが形成されるまでの道筋が見えてくるのか。そんな疑問もまた、本作を読み進めるうえでの鍵になってきそうです。
アビリティが話すという奇天烈な現象だったり、不思議な妖精だったり、強すぎるがゆえに制御が難しい魔法だったり。「異世界」というものに翻弄されながらも、お金という揺るぎない信念を持った中年手前のおじさんが行く、異世界道中。
現地で会った年下の冒険者たちにも振り回されながら歩む主人公の道は、「お金」と、その影にひっそりとたたずむようにある「人情」とを映し出す。
異世界ファンタジー好きの方にはもちろん、勧善懲悪的な要素も含むので、その手のお話が好きな方には是非おすすめしたい作品です!