第15話 出生と運命の人
意識を取り戻した後再度話を聞くが、気を失う前と内容は変わらない。
ヒストリアにとってまさに青天の霹靂で、どうしてそうなったのか想像も検討もつかなかった。
「私は処刑の予定でしたよね?」
「それは本当に王族だった場合だな。だがどうにもヒストリア王女からはそんな気配を感じない。本当に現国王の子か?」
自分勝手で重税を強いていた男の子どもにしては、腰が低すぎる。
「そういえば、先程の夢で、お父様らしき人と会いました。何だか直感でそう思ったのですよね」
小首をかしげるヒストリアにジェラルドも食いつく。
「どんな男だ?」
自分が捕らえたのは琥珀色の髪をした黒目で褐色の肌をした男だ。
やや太り過ぎで自らが助かるためには妻も子も犠牲にいようとした者だった。
「金髪で空色の瞳をした男性です、肌の色はジェラルド様達と同じで、隣には私と同じような白い髪と白い肌の女性がおりました。きっと父と母なのだろうと思いましたの」
ヒストリアの言葉にブラッドは興味深そうだ。
「金髪の男か。この城のものに仔細を聞いてみよう。そういう者がいたのかどうかを」
もしかしたら本当にヒストリアは王族と関係ないかもしれない。
「でもしそれならお父様、いえ、クーランの国王陛下はなぜ私が王女だと偽ったのでしょうか」
「それらしく言って監禁を正当化しようとしたんじゃないか? 王族の義務だ何だと言って、水を生み出して欲しかったんだろ」
ジェラルドが吐き捨てるように言う。
だんだんとヒストリアも理解してきた。
今までの環境のおかしさ。
ヒストリアが祈ることで得られるメリット。
そして逃げ出さないよう死なないように監視する部屋。
「では私はやはり愛されてなかったのですね」
一気に心がすっきりする、すとんと腑に落ちたような気がしたのだ。
虐げるのも監禁するのも、あんなひどい目に合わせられてきたのも愛する子ではなかったからだ。
そうとわかってとても嬉しい、我が子にあんなことをする非道なものを父と呼ばなくていいと思うと、とても晴れ晴れとした気持ちになる。
「ヒストリアと血のつながりがないのであれば、思い切って処刑も出来る。その時が楽しみだな」
ジェラルドが恐ろしい笑みを浮かべていた。
まるで悪魔のようだ。
「無理にジェラルド様がしなくていいのでは?」
「何を言う。妻を陥れた奴らを断罪するのは俺の役目だろう?」
「………………………………はい?」
ジェラルドの言葉にヒストリアの思考は完全に停止した。
「ジェラルド様は本当に私を妻にするのですか?」
「なんだ? 俺が夫では不満か?」
眉間に皺が寄り、仏頂面になる。
「いえそんなことはありません。こんなに優しく強く、そしてかっこいい方が私と結婚するなんて。これは本当に現実ですか?」
まだ夢の中にいるのではないかと頬をつねるが、痛いだけだ。
「頬が赤くなっている、もう止めろ」
つまむ手をおさえ、頬に優しく触れる。
「シェスタの者とクーランの者が一緒になればこれからの統治にも一役買えると思わないか?」
「でも私は王族どころかクーランの者でもないかもしれません。そうしたら私と結婚するよりはお姉様方の方がいいのではないでしょうか」
見た目がクーランの者達と違いすぎるし、公に出た事すらないヒストリアを民達は認めてくれるだろうか。
「止めてくれ、吐き気がする」
ヒストリアが言う姉とは、王女達の事だ。
私腹を肥やしていた者達で、民が飢えている中でも華美な装飾をつけ、身綺麗にしていた。
捕らえる時は何とかジェラルドに取り入ろうと擦り寄って来たが、化粧か香水か、むせかえる様な匂いに本当に嘔吐するところだった。
「王族は処刑だが、このような水を生み出せる力を持つヒストリア王女ならば認めないものは居ないだろう」
しかも水を呼び出すにはジェラルドが側にいた方がいいようだし、丁度いい。
クーランの地をこの信頼できる弟に統治させ、自分はシェスタに戻る。
糞な父と兄を絶やし、自分が王位を握ろうと画策していたのだ。
その為力を削ぐわけには行かず、クーラン侵攻を弟に任せることとなってしまった。
無事に成し遂げることが出来たので良かったが、そうでなければ後悔してもし足りなかった。
「ジェラルド。ヒストリア王女と共にクーランを任せられるな」
「勿論、お任せください」
クーランの民達に求められ、そして信頼している異母兄にも頼まれた。
それにヒストリアの伴侶にとまで言われた、気合が入るに決まっている。
「ヒストリア王女も任せたぞ」
「ですが、ジェラルド様は私の運命の人。そのような方と結婚なんて」
「運命の人というのは、普通恋人や結婚相手の事をいうのではないのか?」
ブラッドの言葉にヒストリアは固まった。
「そうなのですか?」
「例外はあるが、一般的にはそういう者に使う言葉だ。プロポーズの文言にもなる」
しょっちゅう言っていたどころか、ヒストリアは初対面の時から何かにつけてジェラルドの事を運命の人だと言っていた。
(えっと、本当にそういう事なの?)
今の状況では、貴重な水を呼び寄せられるヒストリアを処刑する理由はない。
さらに言えばジェラルドも婚姻に乗り気だ。
そうなると声高に運命の人宣言していたのが恥ずかしくなる。
「ジェ、ジェラルド様ぁ」
羞恥で言葉も紡げなくなったヒストリアが助けを求めてジェラルドの元による。
「私、運命の人って、ずっと辛いことから解放してくれる人だと思ってました。だから私を殺してくれる人だって」
「解放はするし、殺してやるよ。何十年後かはわからないけどな」
屁理屈のような言葉を述べ、ヒストリアを抱き寄せる。
白い髪に白い肌は滑らかで綺麗だ。
泣きべそをかいて潤んだ瞳はキラキラしてとても綺麗だ。
「俺が飽きた時には解放してやるから心配するな」
優しく髪に触れ、見つめている。
絶対にそんな事をしなさそうな表情なのに、それでもヒストリアはジェラルドの言葉に安堵していた。
「本当に本当ですね? 約束してください」
「あぁ約束する」
婚姻し、子どもをつくり、孫まで見てから解放してあげるか。
自分が先か、ヒストリアが死ぬか、死が二人を分かつその直前で解放してあげよう。
またすぐに見つけるつもりだが。
「あとはヒストリア王女の出生の秘密と民への説得だな。説得については皆の前で実際に力を見せるとして」
誰がどのように知っているのか。
皆目見当がつかない。
「捕えているクーランの王にもう一度話を聞いてみるか」
ヒストリアの薔薇ー呪われた王女と要らない第三王子 しろねこ。 @sironeko0704
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