第14話 夢と現実

ヒストリアはいつの間にか眠っていた。


ローブに包まれ、マリベルにあやされているうちにいつの間にか夢の中だった。


夢の中であえたのは可愛い赤ちゃん達。


しかし、皆お腹がすいて喉が渇いて不機嫌そう。


「夢の中だから、何かできるかしら」

絵本で読んだことを思い出す。


赤ちゃんのご飯はミルクだ。


ヒストリアもこの前マリベルが用意してくれたミルクを飲んだのだった。


(甘くて温かくておいしかったなぁ)

そんな事を考えながら、赤ちゃん達にミルクを与えていく。


ミルクを飲んで満腹になった赤ちゃん達は皆嬉しそうだ。


夢の中では何でも出来るので、ヒストリアは赤ちゃん達を思う存分抱っこしたり、ぷにぷにほっぺを突いてみたりと触れあってみた。


「早く本当に幸せになって欲しいわ」

今のクーランの実情を考えるとまだまだ現実には遠い。


しかしこの度クーラン国は解体されたし、あのブラッドという王子がクーランの為に画策してくれているようだ。


ヒストリアはこの地にまだ足もおろしてないが、ぜひともいいところにしてもらいたい。


温かくて柔らかな赤ちゃん達に囲まれ、ヒストリアは夢の中で更に眠ることになった。





「全く起きませんね」


「そうだな」

日も暮れ、クーランに着いたのだが、ヒストリアは幸せそうな顔をして眠っていた。


「部屋は用意させてある。そこに運べ」

ブラッドの気遣いを受け、ジェラルドがヒストリアを抱き上げた。


まだ軽いが最初の時よりも体重は増している。


その重みに安心感を覚え、ジェラルドは微笑んだ。


「ジェラルド、鼻の下が伸びているぞ」

淡々とブラッドに指摘され、すぐに顔を引き締める。


スヴェンとマリベルはそんなジェラルドの様子を見ないようにして、付き従っていた。







(誰かに抱っこされてる?)

温かな感触と、心地良い揺れは気持ちが良かった。


「お母さん……?」

薄ぼんやりと目を開けると、自分と同じ白い髪と白い肌をした女性が微笑んでこっちを見ていた。


隣には金髪と空色の瞳、褐色の肌をした男性がいた。


二人は仲睦まじい様子でヒストリアを見ている。


会ったことなど一度もないのに、直感で父と母だとわかった。


「待って置いてかないで!」

気づいて走ったのだが、まるで追いつけない。


夢の中なら何だって出来たはずなのに、今は体が鉛のように重く、進まないのだ。


「やだ、いや! もう一人にしないで、私も一緒に連れて行って!」

折角家族に会えたのに、離れるなんて嫌だ。


悲しそうに二人はヒストリアを見て首を横に振る。


最後にどこかを指さすとその姿は消えてしまった。


「なんなの?」

示された方を見ると視界が明るくなり、一気に意識がどこかへ移った。


「起きたか」

ヒストリアの目の前にはジェラルドの顔がある。


たまらずヒストリアの口からは盛大な悲鳴がもれた。






「大変申し訳ございませんでした!」

ヒストリアは床に頭をつけ、謝罪をしている。


ヒストリアの悲鳴を聞きつけ、ブラッドの私兵は疎か、ブラッド本人も来ていたのだ。


眠ってしまったヒストリアを抱え、客室のベッドに下ろそうとした時に目を覚ました。


そこからの悲鳴だったのでジェラルドは危うくヒストリアを落としかけたが、ベッドの上だったので幸いした。


間近での大声で耳はまだ痛いが。


「ヒストリア王女、頭を上げてくれ。大事ないならいいんだ」

ブラッドの促しにヒストリアは顔を上げる。


「それにしてもクーラン城内に響く声だったな。一体何があったのだ?」


「それは、私が悪いのです。運んでくれたジェラルド様の顔を間近で見て、驚いて悲鳴を上げてしまったのですから」


「はっ?」

意外な言葉にブラッドも間の抜けた声を出す。


「シェスタでは王女からジェラルドに抱き着いていたではないか。てっきりそういう仲なのだと思ったのだが」


「そういう仲?」「ブラッド様、俺とヒストリアはそんな関係ではありません!」

ヒストリアが聞き返す前にジェラルドの否定が入る。


「幽閉されていた王女を、ジェラルドはわざわざ北の離宮まで連れていき保護していた。そして地下牢に捕らえられていたジェラルドを、今度は王女が助けた。お互いに思う所があると思ったのだが違ったか?」


「思うところかはわかりませんが。ジェラルド様は私の運命の人なのです」

答えたヒストリアの言葉に、皆が面食らう。


「運命の人? なんだそれは」

「幽閉され、祈っていた時に声が聞こえたのです。ジェラルド様が私の運命の人だと。なので助けるのは当然ですわ」

ジェラルドはヒストリアを辛い人生から解放してくれる唯一の人だから助けるのは当然のことだと、ヒストリアは言う。


ブラッドは笑った。


ヒストリアは初めてこの人の笑顔を見た気がする。


「なるほど、ジェラルドがヒストリア王女の運命の人か。確かにヒストリア王女ならジェラルドの伴侶として申し分ないし、決定だ」


「ブラッド様、だから俺とヒストリアはそんな関係ではないですから」

ジェラルドの文句も聞き流し、ヒストリアにだけ言葉を掛ける。


「ヒストリア王女はどうだ? ジェラルドを伴侶にするのは」


「伴侶って、何でしたかしら?」

言葉の衝撃に、ヒストリアは単語の意味が飲み込めなかった。


「ジェラルドと結婚してくれるかという話だ。受けてくれるか?」

結婚?


結婚てあの、将来を誓い合って、一緒に暮らして、子どもの世話をするあれ?


「私とジェラルド様が?」


「そう。クーランとシェスタ国の橋渡しになって欲しい」

何やら重大そうな話をされたが、ヒストリアの頭の中では何も入ってこなかった。


ジェラルドに首を斬られて終わりだったはずの人生が、まさかこんなことになるなんて。


混乱で、ヒストリアは静かにパニックになって、そのまままた後ろに倒れるようにして気を失ってしまった。


気持ちが追い付かず、オーバーヒートを起こしたのだ。


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