第12話:二人の絆(後編)
翌日。
家出した
しかしまだ警察沙汰になっていないようで、
学校ではそこまでの騒ぎになっていなかった。
「・・・親御さんも世間的なメンツがあるんだろうな」
「・・・そうみたいですね。」
放課後、
部室に向かう途中で合流した際にそんなことを話す。
部室には既に亜由と美羽、そして白石がいた。「あれ先生、今日もいるんですか?」
「あのな、俺一応これでも顧問なんだけど?」「あぁすいません。忘れてました」
「君たちなぁ・・・」
白石は呆れた様子を見せる。部員たちはいつも通りの様子だった。
樹斗は昨日の件もあって少し心配していたが、どうやら亜由は平常運転らしい。
「まったく・・・あれから大変だったんだぞ」白石はげっそりした様子だった。
「何があったんですか?」と樹斗が尋ねる。
「あちらのご両親をなだめるのにだよ・・・あんなに時間が掛かるとは思わなかったよ」
「え!なだめる事なんかできたんですか?!」巧一朗が驚いた声を出す。
「ああいう人たちは話すことだけ話したら、気が済んで落ち着く場合が多いよ」
「へぇー・・・そうなんですね」巧一朗は感心したように言った。
「え?まさか先生、ずっと話聞いてたの?!」
「・・・だから時間が掛かったと言っただろう。」
白石ため息まじりに言う。
「・・・世間体もあるのかまだ警察沙汰にはしないようだよ」
「まぁ・・・それは良かったですけど」亜由は安堵の表情を見せた。
「でも娘の安否より世間体を取るあたりがな・・・」樹斗が不満そうに呟く。
「うむ・・・。だが仕方ないさ。向こうも会社経営してるらしいから、
色々と不味いようだ。」
白石も若干呆れ気味なようだ。
「・・・そういうものですかねぇ」樹斗は納得いかないようだったが
それ以上は何も言わなかった。
そんな事を話していると、
「ユッキー、大丈夫なのか?」巧一朗が心配そうに声をかけた。
「はい・・・でも僕の責任でもありますから」
申し訳なさそうにする雪信。
「ユッキーが悪いわけじゃないよ。」亜由は慰めるように言った。
「はい・・・」雪信は軽くうなずくと、準備室へと入っていく。
「え?ユッキー・・・?」
呆然とする一同を尻目に雪信は着替えて出てくる。黒いゴシックドレス姿だった。
「その格好・・・って君は昨日の?!」一同の中で
唯一雪信の事情を知らない白石が困惑する。
「あ、その辺の話はあとで説明しますんで・・・」と巧一朗が白石をなだめた。
雪信はそんな二人のやり取りを横目で見ると、皆の方に向き直る。
「僕はこれから、彼女のこの後について占います。
彼女が今、どういう行動をとるか、今後どういった行動をとるが最適か・・・などです。
相したら家出彼女の行方がおのずと見えてくるかもしれません・・・」
雪信はいつになく真剣な表情で語り始めた。
「ユッキー・・・」美羽は不安げに見つめている。
雪信は席に着くと机にカードの箱を置く。
箱には『THE WONDERLAND TAROT』と書かれていた。
「あれ?今日は違うカード使うの?」雪信が今使っているカードは
いつも使っている物より一回り小さい。
そして描かれている絵柄も、いつもの魔術的なものではなく、
童話の挿絵のようなものになっている。
「アリスカード・・・タロットカードの絵を
『不思議の国のアリス』になぞらえたものですよ。」
雪信は答えながらシャッフルを続ける。
(師匠・・・今回はあなたに頂いたこのカードを使わせていただきます。)
雪信は内心呟く。
「じゃあユッキーお願いね!」亜由が明るく言う。
「はい!では始めます・・・」
そうして占いが始まった。
雪信は机にカードを並べ始める。
(『相談者が迷える場合、その背中は何が何でも押せ』これは師匠の教えだ。
僕はこの教えに従い、汐田さんにあの返事を送った。)
しかしその結果、彼女の家出につながってしまった・・・。
おそらくこれは、彼女が自分の声に従ってしまったからだろう。
(おそらく今回の家出は、彼女にとってマイナスではない筈だ・・・)
昨晩の段階で雪信はそう考えていた。雪信は並べたカードを一枚ずつ捲っていく。
(だからここで占うべきは、今の彼女の居場所ではなく・・・)
雪信はここで一呼吸置き、麻耶から教わった3つ目の言葉を思い出す。
(『相談者にとって、最善となる結果を求める』・・・!)
雪信は最後の一枚のカードを表にした。
「・・・・・・・!!」
「え!?何?どうしたの?」亜由は驚きの声を上げる。
「こ・・・これって・・・・・・・・・!!!」
一同がざわついた。
「周囲に惑わされず・・・静かに流れを見守れ・・・?!」
雪信はカードを見ながら呟いた。
「・・・どういうことだよ?」巧一朗が聞く。
「ものすごくざっくり言うと・・・『今は何もしなくていい』」
占った幸信本人ですら驚いた様子で言う。「そんな・・・でもどうして・・・」
「それは僕にもわからないですけど・・・」
雪信は少し考える。
「ただ、僕の予想だと・・・彼女はきっと大丈夫ですよ」
「なんでわかるんだ・・・?」樹斗が尋ねる。
「占い師というのは、自分の占いの結果を最も信じるものです。」
雪信は事も無げに言った。
「あぁ・・・」亜由は納得する。
「だからまず、僕自身が信じないといけません。」
「へぇ・・・」雪信のセリフに巧一朗はなにやらキツネにつままれた顔をしていた。
「とにかく、今の段階では我々にできることはない・・・という事か。」
樹斗は腕組みしながら雪信の言葉をまとめる。
「はい。そういうことです。」
雪信は自信あり気に答えた。
****
かくして。
雪信の言葉通り、
汐田理奈はその日の夕方、自宅に帰ってきた。
友人と彼氏を連れて。
「ええと、つまりどういう事だったんですか?」
翌日、報告に来た白石に樹斗が尋ねる。
「汐田さんは・・・両親と話し合う機会を作りたかったらしい。」
白石の話をまとめると。
汐田理奈は占いの結果を受けて、両親と話し合うことを決めた。
しかし彼女の両親は、始終あの調子で話も聞かず一方的に怒鳴り散らすだけだった。
そこで彼女は一計を案じることにした。―
「それで家出したと?」
「友人の家に泊まって、親御さんをわざと心配させることで
話し合う機会を作ったそうだよ。
・・・言っちゃなんだがあの親御さんたちじゃ、簡単に子供の話聞かなさそうだったからなぁ」
先日、汐田理奈の両親の相手をまともにしたばかりの白石が妙に納得していた。
「まさに捨て身の手段だったわけですね?結局どうなったんですか?その話し合いは?」
「友人だけでなく、彼氏まで同行したんだ。かなりの勇気をもらったんだろうね。
反対されていた交際の許可まで持ち込んだそうだよ。」
「おお!」樹斗が感嘆の声を上げる。
「でも・・・それって大丈夫なんですか?」
「ああ。問題はない。むしろいい傾向だ。
彼氏君の方も、親の言いなりになって
交際をやめるような奴ではなかったってことだよ。」
不安そうな巧一朗に対して白石は安心させるように言った。
「それにまた問題事が起こるようだったら僕が相談に乗るよ。」
「おやおや言うねぇ、ユッキー」
亜由の返しに少し照れ臭そうにする雪信だったが、
その顔は少し自信を取り戻したようだった。
「・・・何はともあれ、何とかなってよかったですねモトちゃん先輩。」
「あぁ。これで一件落着だ。」
樹斗と巧一朗は顔を見合わせて笑った。
「しかし今回はご苦労だったねユッキー。」
「いえ。僕は大したことしてません。僕の占いはきっかけでしかなかったようですし。」
「でもそのせいでユッキーはしなくていい苦労させられたじゃん!」
「いえ、僕の占いで不幸になった人がいなかったという事が
わかっただけでも良かったです。」
「ユッキーは相変わらず優等生っスねえ~」
「亜由だっていつも通りじゃないか」
「えへへ」
2人は笑い合った。
「あの、盛り上がってるところすまんが、ちょっと聞きたいんだが・・・」
白石が申し訳なさげに口を開く。
「あ、はい。」
「どうして君は、占うときに女の子の格好を?」
「・・・・・。」ここにきて周回遅れの質問が来てしまい、雪信は言葉を失った。
「先生・・・それはですね・・・」
亜由がこの後多少面倒くさそうに、雪信の事情を説明するのだった・・・。
****
その夜。
雪信は麻耶から声を掛けられた。
「どうやら上手く行ったみたいだな。」
「はい、とは言っても僕自身は何もすることなく、本人たちの行動の結果でしたが。」
「まぁ占いとはそういうものさ。お前にしては上出来だよ」
麻耶は雪信の頭を撫でた。雪信はくすぐったそうな表情をした。
「そうやってすぐ子ども扱いする・・・」
「ふふん。私は大人だからな!」麻耶は不敵な笑みを浮かべながら言った。
雪信はため息をつく。そして少し間を置いて麻耶に聞いた。
「師匠、僕・・・占い師としてきちんとできましたか?」
「相談者にとっていい結果になったのなら、それは成功と良いっていいと思うぞ。」
麻耶は微笑んだ。雪信は安心したような顔で胸をなでおろした。
「よかった・・・」
そして安堵すると同時に、麻耶に言う。
「あと、師匠から貰ったこのカード、今回使わせていただきました。」
そういって麻耶にアリスカードを見せる。
「お前、まだこれを使ってたのか?」麻耶が呆れたように言う。
「だってあなたがくれたカードですよ?大事な時にだけ使っています。」
「それは、お前が駄菓子屋で買ったトランプで、
私の真似をしてるのを見かねてあげただけだ。」
「いいんですよ。それでも。」
雪信は嬉しそうな表情を見せた。
そして話題を変える。
「で、オカ研にたくさんの僕用の衣装を寄贈してるようですね・・・」
麻耶は雪信の問いに対しニヤリとした。
「・・・弟子の占いが上手く行くようにと思ってな。」
「またそんな事を・・・」
絶対に貴方の趣味だろうと言いたいのを雪信は必死でこらえる。
「まぁなんだ、せっかく可愛い恰好ができるんだ。有効活用しない手はないだろ?」
「別に僕は可愛くなくてもいいんですけどね・・・」
「ほう?最近足の毛の処理まで始めてるのに?」
「??!」
麻耶の突然の発言に雪信は困惑する。「なっ!?ど・・・どうしてそれを!?」
「そりゃあ分かるよ。一緒に暮らしてれば。」
麻耶は自慢げな顔をしている。
「そ・・・それは、ああいう格好するなら少しでも
見栄えの事を考えてですね・・・」
雪信は真っ赤になりながら言い訳する。「ま、そういう事にしておくか」
麻耶は笑いながら雪信の頭を撫でた。
「うぅ・・・」
雪信は恥ずかしそうに俯いた。
「まぁそう落ち込むな。今度はちゃんと下着もそろえてやるから。」
「絶対にやめてください!!」
雪信は全力で拒否する。
「なんだい、私がプレゼントしたものは着れないっていうのかい?」
「そういう事じゃないですよ!」
雪信はこの語もしばらくからかわれた。
つづく。
俺には見る事しかできない!~中途半端な霊感持ちの俺がオカ研に入りました!~ 梅玉 @Take2036
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