呪いの意味

たちょま

第1話 呪いの意味

ある夢を見た。

今年は全てが俯瞰で見えている夢だった。

これでこの夢を見るのは三回目だ。

視点が毎回異なるが、内容は同じ。


女性の家で目覚めるところからスタートする。


起きると彼女は「仕事に行く」と言う。

俺は「適当に帰る」と返す。


彼女が出たあと、インターホンが鳴った。

人の家だから出ないつもりだったが、どんな人物が訪ねてきたのか気になった。

モニターには帽子を深々と被った女性が立っていた。

住人が中から出てきてしまったことで、その女性はマンションの中に入ってくる。


嫌な予感がしたため、部屋の鍵をしてマンションの最上階である6階に階段で上がる。


女性は俺が出た部屋の前で止まる。

インターホンを押すがもちろん反応はない。

すると女性は手足でドアを叩く。


ドン!!バン!ドン!!バン!

カンカン!ドン!!キン!バン!!


次の瞬間、背筋が凍る。


「達也いるんでしょ!出てきなさい!!」


俺のことだった。

自分の家ならまだしも、他人の家で自分が標的となっている。

これ以上に怖さと焦りを感じたことはこれまでなかった。

その場に出ていく勇気は無かった。


しばらく階段で様子を伺っていた。

30分ほど経っただろうか。

音は止み、閑静な住宅街の表情が戻ってきた。


建物から出ていくまで確認しなければ不安で部屋に戻ることはできなかった。


6階の踊り場からマンションの入り口を見ていた。

足音が遠のいていく。

少しすると足音は止まった。


中々出てくる様子はない。


“早く出て行ってほしい”


その一心で階段の踊り場から下を覗き込んでいた。

人影は見えなかった。


更に体を乗り出して覗き込んだ。

すると、1階と2階の階段の踊り場から女性が背中をのけ反らせ、上を見てきて目が合う。

「........................った?」


聞き取れないが口元は何かを話している。


そこでいつも夢は終わる。


一昨年と去年で夢の全容は把握していた。

登場人物は俺と学生時代に付き合っていた女性の母親だ。



ふと過去の話を思い出していた。


俺は過去に学生時代から付き合っていた彼女と婚約をし、それを破棄している。

婚約破棄をした当日の夜中に、相手のお母さんからある連絡がきた。


----------------------------------------------


達也へ


私の大切にする人、物を傷つけた人間は幸せになれないというジンクスがあります。

あなたもきっと幸せになることはないでしょう。さようなら。



----------------------------------------------

たった2行。

それが逆に憎悪を感じさせる。


何度か読み返している内に、右のスクロールバーが1mmにも満たないことに気づく。


“ん?”


見出しに気を取られすぎて、下に文章があるなんて思ってもいなかった。

下へスクロールしていく。


空白がずっと続いていた。


更に下がると無数の字が出てきた。


当時はガラケーからスマホにメールを送ると文字化けといわれる謎の文字や記号が大量に出る現象があった。


“文字化けか”


そう思い、更に下にスクロールをしていった。


ふと目に留まる字があった。


「達也」


嫌な予感がした。


もう一度、最初から見ることにした。


落枯消殺達也屍刺水亨絞狂壊悍残霊降悪唖遺我猥螺哀

迦婁狗吐切頭死害乞障墟鬼気堕魂贋陀殺達也屍偽疑暗

・・・


見るからに不吉な文字が100行近く続いている。

その所々に「達也」という字があった。


意味は分からないが、文字と送り主に対する恐怖心に意味など必要なかった。


送り主の娘である元恋人に連絡をした。


「それが来たんだ」


何か知っているような口ぶりだった。


彼女の話では、


・母親は過去に海外に留学していた

・海外で呪術や占星術、魔法を習っていた

・過去にも同じような文章を送られた人間がいる


おおまかこのような内容だった。


最後の過去の話が気になり確認した。


「死んだよ」


表情から嘘ではないことは理解した。


自ら車へ飛び込んで自殺。

事故の時に叫んでいたと運転手が言っていたそうだ。

「わかったから、もう許してくれ」と。


故人が遺族に繰り返し話していたのが夢の話だった。


「毎年のように不思議な夢を見る。最初は普通の夢だと思っていた。2回目は女性の視点。初めて気づいたが、手に包丁を持ってドアを叩いていた。何か言っていたが聞き取れなかった。3回目は俯瞰で見える夢だった。そして、最後にはっきりと問いかけられた。夢の中では答えることができなかった」


亡くなる前日には

「答えてしまった。俺はどうなるんだろう」


遺族は意味が分からなかったが、故人は常に何かに怯えていたと話していたとのことだった。


携帯が鳴った。

知らない番号だ。


「もしもし」


最初は誰か分からなかった。


次の一言で全てを理解した。


「呪いの意味わかった?」

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呪いの意味 たちょま @tachoma

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