出会いは突然に

 こんなことある?

 駅でぶつかって階段から落ちて、頭と足を打ってしまったなんて。

 意識はあるけど、足はきっと折れている。激痛が走り、痛みは止まらない。

 通勤ラッシュで人もたくさんいる。

「駅でこんなになるなんて」

 恥ずかしいよりも足が痛くて考えられないが、隅に行かないと通りすがりの人にけられてしまいそう。

「救急車呼びますか?」

 階段から駆け下りてきた男の人がいた。多分、落ちる原因になった人だ。

「お願いします」


「立とうとしないでください。骨に異常があったら大事です。僕が付き添いますから」

「あなた、仕事が」

「大丈夫です。さっき電話して、付き添ってやれって許可が下りましたから」

「じゃあ……お願いします」

 今日は仕事がパーだ。

 救急車で揺られながら、ぼんやりそう考えていた。

 時給制だから、今月はもう贅沢できないなって思いながら目を閉じた。

 ☆☆☆

 幸い、命に別状はなかったものの、2か月は松葉杖生活。

 一人暮らしの家計には大打撃だ。

「申し訳ない」

「これだけ休んでしまったら仕事はないわね」

 絶望的な気分でつぶやく。

「あの、独身の方ですか?」

「ええ」

「この先どうすればいいのか」

 経済的な不安は尽きない。

「もしよければ、ウチで生活しませんか?」

「は?」

「いや、もちろん入院費用などもお金はお支払いいたしますが、お一人暮らしでその状況はつらいのではないかと思いまして」

「あなたは?」

「僕は見ての通り、さえないので、独身ですし彼女もいませんから」

「引っ越し費用まで面倒見てくれるっていうの?」

「もしよければの話ですが。足が治って新しい先が見つかるまで。責任取ります」

 いきなりこんなことを言われても詐欺かと思うし、本当にいいのか悩んでしまう。

「考えさせて」

「じゃあとりあえず会社行きますんで。これ名刺と僕個人の携帯と住所です。この先のこと考えてみてください」

「……」

 その場にいた看護師さんは感想を言ってくれる。

「あら、いい人そうでひとまずは良かったじゃない」

「ええ。私、どれぐらい入院してればいいんですか?」

「そうねぇ。3週間でどうかって先生はおっしゃっていたわ」

 一人暮らしにはあまりに長い空白だった。




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失恋の傷を引きずる女の癒し方 朝香るか @kouhi-sairin

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