第二話:喋るけど無表情で無距離な幼馴染

EP14.喋り始めた少女

未取月曜日の朝 郎亜ろあ 視点】



「行ってきます」


 朝食で使った食器を洗っている母さんにそう告げて、僕は引き戸を閉めた。


 そのまま玄関に出て、ローファーをき、ドアを開ける。

 今は朝の八時頃。学校のある平日、僕はいつもこの時間に家を出ているんだ。


「おはようございます」


「おお、郎亜くん。おはよう。学校かの?」


「はい。行ってきます」



「おはようございます」


「あら、未取さんの。おはよう、郎亜くん。行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 散歩をしていた、郵便局の裏にある家のお爺さんや、家の前を掃除していたおばさん。

 他にもご近所さんに挨拶をしながら、道路を歩く。


 僕の両親はご近所付き合いでの顔が広くて、息子である僕のことも結構知られている。

 だから、こういった挨拶は小さい頃からの日課なんだよね。


 そんなこんなで二、三分。


 まだまだ通学路の道中だけど、珍しい黒色の屋根の一軒家が見えてきた。

 屋根が他の家よりも暗いから、ちょっと遠くから見ても分かりやすい──黒神くろかみ家だ。


 ──の前に、人がいる。


「……ん?あれ、流理るり?」


 一目で誰かは分かった。


 腰まで伸びた黒髪に、誕生日にプレゼントした水色のワンポイントカチューシャ

 僕と同じブレザーを着ているし、十中八九、親友の流理に違いない。

 そんな流理は、空でも眺めているのか顔を斜め上に向けていた。


 ……なんで家の前にいるんだろう?

 僕がインターホンを押して呼び出すから、いつも家の中で待ってもらってるのに。


 と首を傾げていたら、流理もこちらに気づいたみたいで、こちらに顔を向けてくる。

 そして、かばんを持っていた両手の片方を胸元まで上げてふりふりと、振ってきた。


 こちらも手を上げながら、少し小走り。

 流理もゆっくりとこちらに近づいて、直ぐに声が届く距離になった。


 先ずは、気になっていた''なんで家の前にいたのか''を訊く……前に。


「おはよう、流理」


 まずは朝の挨拶を。ニコリと笑みを作って送る。

 挨拶は大切。僕の座右ざゆうめいなんだ。


 いつも通り、流理が僕の挨拶に頷く──


「……おはよう」


 ──のを待とうとして、固まった。


 流理は頷かず、こちらの目を見て挨拶を返してきた。

 その表情は、少し恥ずかしげ※無表情ですに見える。


 ………。


 ………………。


 …………………………え?


「お、おはよう?」


 頭の整理ができず、返された挨拶に対して返してしまった。


 流理はというと……


「……なんでもう一回?」


 困惑気味※無表情ですよに、声に出して指摘。


「ええ!?」


 それを聴いて、動く口を見て、今度は声を出して驚いた。


 だって……流理が声を出してるから。


 ──いや、何言ってるのか分からないかもしれないけど、本当に驚いたんだよ。

 だって流理は昔から口下手で、あまり口から声を出して話したがらないから……


 一番仲が良いと自負している僕に対してさえも、ほとんど声を出すことは無いんだ。

 一応、本当に必要最低限には僕には話してくれるけど……それでも、基本的に一言だけ。


 そんな流理が……僕の挨拶に挨拶を返して、しかも動揺で再び返した挨拶に指摘してきて。

 声を出さない流理に慣れている僕としては、動揺が度をすぎてしまった。


「……やっぱり、変?」


 そんな僕を見て。

 少し恥ずかしげ※無表情だよに、そして少し不安げ※無表情だってに。サイドヘアをくるくるといじりながら言う流理。


「い、いや!ごめん、変じゃないよ!」


 自分が失礼な反応をした事に気がついて、僕は慌てて謝った。

 いくらなんでも、流石に驚きすぎだった……


「……そう」


 そんな僕に、相槌を打つ流理。

 どこかほっとしたような表情無表情だって言ってるだろ!に見える。

 どうにか許しを得ることができたみたい……なのかな?


「……じゃ、行こ?」


 少し様子を伺っていたら、手を差し出してくる流理。もう驚くことはしない。

 ……けど、わずかに同様はしてしまう。


「う、うん」


 ぽりぽりと頬を掻きながら、僕はいつも通り差し出された手を握った。


「ん」


 流理は少し笑って※以下略頷くと、僕の手を引いて学校までの通学路に歩き出す。

 僕は少し動揺を残しながらも、流理に手を引かれて歩き出した──






 その後の道中おまけ的な何か


「……オススメした無ムむMuライトノベル、読んだ?」


「あ、うん。昨日、最新刊まで一気読みしたんだ。とても面白かったよ」


「……そう。……好きなシーン、ある?」


「そう、だね……四巻の第二話かな?リルイト主人公ミュームヒロインを助けるシーン」


「……そう。あそこは、私も好き。……そこまでの緊張感、凄いから特に、印象に残った」


「あー、わかるよ。熱くなったよね」


 流理と雑談を繰り広げていた。

 最初はまだ動揺していた僕だけど、段々と自然に話せるようになったよ。


 流理の一人称って''私''なんだなあ……と、少し場違いなことを思ったね。






【おわび】



 すみません。昼寝してたら、いつの間にか日をまたいでたので午後12時に更新しました……

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無口で無表情で無距離な幼馴染と、無自覚にいちゃいてる話。 さーど @ThreeThird

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