EP13.喋ることにした少女

第三人称女子会を覗く天の声 視点】



「えええ!!ほんとに喋ってなかったの!?」


「ちょ、似亜にあさん声が大きいです!」


 似亜の叫ぶ声が''喫茶店内''に響いた。

 事情を説明していた美衣那みいなが咎めるが、しかし三人の席へ他の客からの視線が集まる。


 ハッとした似亜は、立ち上がってすみませんすみませんと周りへ頭を下げる。

 視線は無くなったが、思わず叫んでしまった事の後悔が心の中に積もった。


 まあ、それも仕方の無いことだ。

 口数は少なくとも必要最低限は喋るるりりんが、まさか弟の前では完全に無口だとは……似亜に、全く知る由もなかったのだから。


 理由としては、簡単だ。

 似亜が実際に郎亜ろあ似亜るりが一緒にいる所を、ほとんど見た事がないからである。


 そもそも、似亜と流理は、今年の春にこの女子会が始まるまであまり面識がなかったのだ。


 一応、お互いに知ってはいた。


 が、似亜にとっては、小学校高学年頃に何度か遊んだかなあ、くらいの郎亜の幼馴染。

 流理にとっては、小さい幼稚園児頃に何度か遊んでもらったかなあ、くらいの幼馴染郎亜の姉。

 二人にとっては、お互いこの程度の認識だったのだ。


 まあ、六歳差だからそんなものだろう。

 それに、似亜は中学になってから部活動で忙しく、その時期から会ってないのもある。


 じゃあ何故この女子会、もとい事情聴取にに似亜がいるのかというと……たまたまだ。

 美衣那と似亜がたまたまバイト仲間で、美衣那が似亜が郎亜の姉だとたまたま知ったから、この事情聴取に呼んだだけなのだ。


 そこから、弟から話を聴きつつ流理にアドバイスするお姉様的なポジションにはなった。

 が、前述の通り、流理と郎亜が一緒にいる所を実際に見たことはほとんど……というか、二人が小さい頃にしかないのだ。


「るりりん、ほんとに郎亜の前じゃほとんど喋んないの……?」


「……うん」


「ええ……聴いてないわよ……」


 項垂れる似亜。


 まあ、当然だ。

 郎亜はそもそも、流理がほとんど喋らない事を全く気にしていないのだから、言わない。

 美衣那も、昔はかなり言っていたものだが最近では諦めていたのだ。


 まあ、これも''たまたま''といえる。

 似亜もかなり災難さいなんだ。


「なんかどこかでムカつくこと言われてる気がする……」


 おっと。


「……で?そんなるりりんが喋る事にしたと」


 少しジト目になりながら尋ねる似亜。


「……うん」


 そして、頷く流理。

 無表情だが、どこか覚悟を決めたような……そんな雰囲気を感じる。気がする。


「……まあ、いいんじゃない?喋んないよりは喋った方が、好きな気持ちもよく伝わるわよ」


 苦笑しながらそういう似亜。

 「逆に喋らなくても伝わってたあいつが怖いけど……」と、小さく呟いている。


 そして、ノートに書いた。


<課題▶︎郎亜の前でも喋ってみる>

<     ↓↓↓      >

<結果▶︎           >


「まとまりましたね」


 メモを覗き込んで、ふむふむと頷く美衣那。

 ノートを閉じながら、似亜も頷いた。


「少し想定外だったけどね。るりりん、次の報告、待ってるからね」


「たのしみですね!」


 なんだか調子の良い似亜と美衣那。


「……えと」


 ……が、流理は言い淀んでいた。

 二人は郎亜の前でも普通に喋る事を想像している……のだろうが。


『じゃあ、まずは挨拶と助けられた時に『ありがとう』だけに絞って言ってみないか?』


 流理としては、ずっと無口を貫いていた郎亜の前で喋るのが小っ恥ずかしいのだ。

 だから……言わないといけないのだが。


「いや〜、流理も遂に未取の前で喋るのね」


「というか、郎亜はるりりんの言いたいことをどうやって感じ取ってるの?どこまでも無表情よ?るりりん」


「いや〜それが……私にもわかんないです」


「ほんとにどうやって??」


 もう恋愛相談についてはは終わりだと言わんばかりに、雑談に走り始める二人。

 その空気は……流理にとって、打ち崩せる気がしなかった。


「……来週、どうやって誤魔化そう」


「「ん?なんか言った?」」


「なんでまたハモるの?」


 結局、流理は何も言えずに女子会は終了したのだった。



〜第一話:無口で無表情で無距離な幼馴染 fin〜




▶︎次話

第二話:喋るけど無表情で無距離な幼馴染

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