EP12.助けて欲しい少女

伊達思考豊かな 美衣那みいな 視点】



「ねえるりり〜ん、言ってみなさいよ〜」


 ニヤニヤと両手で頬杖を作りながら、ウザ絡み口調で攻める似亜にあさん。

 と共に、足元からかすかな音がした。


 見れば、ちょんちょんと赤いパンプスで流理るりすねを小突いている。

 汚れないのかしら?とも思うけど、まあ当たってるのブーツだしまだ良いか。


「……言えない」


 一方で、黙秘もくひする流理。


 似亜さんのつつきを避けながら、逆にミドルブーツでやり返している。

 こらこら、似亜さん今日はパンツでしょ。まあ、似亜さんは止めないし言わないけど。

 というか、この初夏にミドルブーツって、暑くないのかしら。


「どうしても?」


 そんな私も、足に風がもろで当たるサンダルで割り込みながら訊く。


「……言いたくない」


「「えー」」


「なんでまたハモるの?」


 おお、流理がツッコんだ。珍しい。

 いつも必要最低限の事しか話さないのに。


 ただ、うーん。

 そこまで拒まれると、逆に気になるのよね。


「まあいいわ」


「あ、いいんですか?」


 しかし、似亜さんはスッパリ諦めた。

 私としては、まだまだ足りないんだけども。


「るりりん本人がハッキリ『言いたくない』って言ってるしね。そこは線引きしとかないと」


「お、大人だ……」


「これくらい気遣わないとダメよ」


 私や流理を変なあだ名で呼んだり、時々大学の愚痴ぐちを高一に言ってくるのに……


「なんか変なこと考えてない?」


「いや、やっぱ大人なんだなあとしか」


「……ふーん」


 逸れそうな目を合わせながら返す。

 けど、似亜さんは疑わしげな相槌あいづちだけしてくる。怖いわね……


「……さて、次だけどね。帰ってきてからの昼食を一緒に作ったこと」


 <一緒に料理>とメモする似亜さん。

 ……ふむ。


「新婚夫婦ですか?」


「同意するわ、非常に」


「……違う」


 共働きしている若夫婦で、家事分担、料理は一緒にするタイプのやつじゃない。


「その後、一緒にゲーム。そこ自体はいいけど、その体勢がまさかの座ってバックハグ」


 <座ってバックハグ>とメモする似亜さん。

 ……ふむ。


「……新婚夫婦ですか?」


「分かるけどちょっと違うわね」


 はずした。


 少し悔しがっていると、似亜さんが額を抑えながら俯いた。

 なんだか顔が赤くなっているみたい。


「バカップルがする事よ。しかもあの愚弟、るりりんの髪を弄ってたらしいし」


「えー……」


 あー……。バカップルだわ、それは。


 私もアイツとはバカップルかなあと思ってたけど、全然そんな事ないと思えてきた。

 流理と未取郎亜は付き合ってないのに。


 ……アイツのこと、愛してるつもりだし、愛されてるのも感じるんだけどなあ。


「……助けて」


 何か聞こえたけど、私達は反応を示さない。

 ここは本人への配慮は必要最低限なの。


 顔を赤くしていた似亜さんも、ふうと息を吐いて。


「……で、次。これも復習ではあるけど、毎日自室にいれてるるりりん」


 流理に突っかかる。


 似亜さんも本格的に容赦ようしゃないわね!?

 とは思ったけど、言わない。だって完全に同じ心持ちなのだから。


「何か始まったんですかね?」


「それがねお嬢さん、実は何も無かったみたいなのよ」


「あらまあ!ホントに?」


「ええ!なんと彼の膝枕でお昼寝したんですって!」


「あらまあ!凄いですわ!」


「……なにそれ」


「「あたし達にもわかんない」」


 なんでおば様方の会話になったのかしら。

 いや……お嬢様って言ってたし、貴族のご令嬢かなにか?


 にしても、毎度恋人でもない男子を自分の部屋に入れるってホント凄いわね。

 家もそうだけど、自分の部屋となるとそのハードルも跳ね上がるはずなのに。


 似亜さんはボールペンを置いた。


「まあ、以上ってところかしら。一応訊くけど、るりりん。これ以外に何かある?」


「……あっても言わない」


 似亜さんの質問に、首をする流理。


 ……『あっても』って、絶対なにか他にあったわよね。

 似亜さんも同じことを思ってる顔をしてる。


 まあ、先程の通りこうなると流理の口はとても固い。

 だから、別に私達は何も言わなかった。


 ……のだけど。


「……ただ、次にから郎亜と会う時はちょっと喋ろうと思う」


「「え?」」


 なにか決意を新たにしたように、紡ぐ流理。


「流理、喋るって……」


 話を早く終わらそうしめると思ってたから、流理が言葉を紡いだ事自体驚くべきだけど。

 それ以上に、その言葉は、私にとっては凄く驚くべきことだった。


「……言った通り。郎亜の前でも、喋る」


 あんなに言っても、頑なに嫌がった流理が?

 『伝わるから』が最早口癖と化していた、あの流理が、郎亜にも喋る?


「ど、どうして……?」


「零に言われた。『これは僕の自論だが(ry長文略!』って」


「なっが!?」


 いや……。え?


 あの子、ホントに中学一年生……?

 そんな論を語ることができるって……しかもいやに具体的だし……。


 ええ……。


 私は零くんの自論についての方が驚いていた。最早ドン引きしていた。


「ま、まあ……いいんじゃない?私もずっと喋った方がいいと思ってたし……」


 困惑しながらも、ね?似亜さんにアイコンタクトを取ろうと目を向けた。

 そこには……


「……え?喋ってなかった?」


 唖然あぜんとした表情の似亜さんがいた。


 ……あ、そういえば。

 似亜さんって流理と未取が一緒にいるのを直接見た事、あんまりないかも……






【あとがき】



 EP13にて、第一話が終了となります。

 EP13は第一話のエピローグ的な感じのストーリーなので、もしかしたら短くなるかも。

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