日がな一日

惟風

日がな一日

 父は仕事人間、母は苛々を子にぶつける家庭だった。

 嫁に行って娘が生まれた。

 夫は寡黙で頑固、そこそこの年で死んだ。

 娘は結婚せずに会社経営に精を出している。


 老いて寝たきりになった私は、ベッドの上でこれまでの人生を振り返る。


 父と遊びたかった

 母に優しくされたかった

 夫に子育てを労ってほしかった

 孫の顔を見たかった


 毎日少しずつ、思い出に気持ちの折り合いをつけていく。


 仕事が忙しかったのだろう

 寂しかったのだろう

 口下手だったのだろう

 そういう人生を生きたいのだろう


 時間はたっぷりあり、一年かけて心の整理をつけた。

 時間がまだ余って、もう一年かけて二周目の振り返りをした。


 それも、死が近づいてくるにつれて何もかも薄れていく。

 記憶も、愛憎も、執着も。

 私はどう生きただろう。

 その答えを求める気持ちすら掠れていく。

 良くも、悪くもない。


 死がただ、ゆっくりと瞼に降りてくる。



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日がな一日 惟風 @ifuw

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