イヤリングの追憶

汐海有真(白木犀)

イヤリングの追憶

 私のことなんて忘れてね、と君は微笑んだ。小さく痩せ細った君は幾つもの管に繋がれていて、機械が発する冷たい電子音がいやに耳に障って、できることなら全てを、壊してしまいたかった。


 時間は残酷なまでに正しく流れ、やがて君は旅立った。君が失われたのに、世界の様相は何も変わらなかった。人々は今日も笑い合い、傷付け合い、そして殺し合った。


 君との記憶が風化していくのが怖かった。愛し合った日々が、過去のものとして薄れていくことが、嫌で嫌で堪らなかった。


 だから、君から贈られたイヤリングを、今も付け続けている。耳に微かな痛みを覚えるたびに、君を思い出すから。忘れてなんてやるものか――鏡の中の僕は、苦しそうに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イヤリングの追憶 汐海有真(白木犀) @tea_olive

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ