(6)

「気持ち悪い笑い方だな」


「恋虎も一応女子なんだからさー」


「少しはたしなみを覚えた方が今後の恋虎嬢のためでござるよ」


「……めだか」


「おまえらそんなこと言って良いのか? 将来的に、おまえらと一緒に住むかもしれない人物に向かって」


「はぁー?」


 四匹は首を傾げていた。まあ、無理もないか。こいつらはまだ子供。大人の恋愛にはついて行けなくて当然よ。


「うう……恋虎さん……」


「なーに? ほら、あたしはここにいるわよ」


 照れなくて良いから。さあ、その先の言葉を!


「恋虎さん……」


「は、はい!」


「僕と……」


「はい」


「僕と……」


「う、うん」


「僕と一緒に……」


「ん? 一緒に?」


「僕と一緒に、カウンセリングにいこう。大丈夫。診察室も、僕がつき添ってあげるから」


「はあっ!? 何言ってるのよ! 愛の告白は?」


「君の食べ物に対する執着が心配だ。このままだといずれ、血を見る。その前に、僕と……zzz」


 こいつ! 何て紛らわしいことを寝言でぶちまけてんだ! 


 そこではっとしたあたしは、おそるおそる四匹を見た。みんな勘違いしたあたしを見て笑いを堪えている。


「プッ……なんだ、そういうことか……ククク」


「ちょっとタゴサク、笑っちゃダメだよー。プッ……。恋虎も一応女の子なんだから、ロマンチックな展開を予想していたんだよ、きっとー。ククク」


「まだ自分が旦那様と釣り合うと盲信しておるのが、ククク……滑稽なり」


「……プッ。ククク。カツオ」


「うっせえんだよおまえら! 乙女の純情踏みにじりやがって! それにゴンベエ! ずっと突っ込まなかったけど、一人だけしりとりしてんじゃねえよ!」


 あたしが四匹とやり合っている間も、白狼もずっと眠りこけていた。この戦犯やろう……。


「恋虎さん……」


「なんだよ。もう、ずっと眠ってろ」


「大切な友達だから、見放さないよ……zzz」


 途端にあたしは息を止めた。白狼……。


「おい恋虎。顔が真っ赤だぞ」


「本当。たったこれだけの言葉で耳まで真っ赤っかー」


「恋虎嬢はいつも虚勢を張っている割に、うぶでござるな」


「……オ……オ……」


「う、うっさい! さ、さあ。ノートを取らなきゃ……」


 あたしは完全に動揺していたが、再び机に向かい、何とか深呼吸をしてペンを滑らせた。も、もう。白狼ったら。


「恋虎。シャーペンが逆だ。新聞じゃねえんだから間違えねえぞ普通」


「わ、分かってるわよ。ふーっ……」


 あたしはちらっと眠っている白狼を見た。本当に眠ってる。まったく、ドキドキさせやがって。


「あたしもよ。白狼」


 白狼は返事をせず、そのままずっと黙っていた。


「……オ……オ……」


「なによゴンベエ。オの付く言葉が見つからないの?」


「……終わり」


「なにそれ!」


 不覚にもあたしは吹き出してしまった。そうね。これで終わり。事件も解決したし、言うことなし。なんだかんだあったけど、とても濃密な日々だったわ。それもこれも、白狼。あんたのおかげよ。


 お疲れ様。本当にありがとうね。





           第4話 忍び寄る魔の手からヒナを守れ! ~完~

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私の彼はやさしい呪術師 白糸夜中 @mitarashi1229

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