(5)

「恋虎ー、今日はのこのこ何しに来たのー?」


「恋虎嬢。今日はどの面下げて何のようでござるか?」


「……ウゼー」


「おまえら一言多いんだよ。それにゴンベエに関しては文句だ。明日テストだから勉強しに来たんだよ」


「zzz。勉強は詰め込むことと同じくらい、休息して頭をリラックスさせることが重要だよ。よって僕は今日、勉強しない」


「休息なんて一日も必要ないじゃない。テストは明日なのよ。ほら、起きてってば!」


 肩を揺すって説得していると、白狼は再びタオルを顔に乗せて胸の前で手を組んだ。あれ、このタオルってまさか。


「ていうか、何でタオルを顔に乗せてるのよ」


「アイマスク代わりだよ。僕は少しでも光があると眠れないから。いろいろ試したけど、やっぱり二千円するだけあって、このタオルはなかなか……zzz」


 だからこいつ、前に来た時もタオルを顔に乗せてたのか。今年一番のしょうもない伏線回収だ。って、違う! 勉強を教えてもらわなきゃ、あたしのスマホが!


「白狼ー、起きてよー。勉強教えてー」


「zzz」


「寝てんだからもう諦めろよ」


「そうだよ。今回の事件だって、毎日夜遅くまで協力してたんだからさー」


「旦那様の寝不足は光に対する神経過敏だけでなく、恋虎嬢の捜査に首を突っ込んでいたからでござる。なんと儚し」


「……かき氷」


「それも、そうね……」


 言われてみると、白狼はやる気がなさそうにしながらも、念写した画像の処理をしてくれたり、事件の推理をしてくれた。そうね。何でもかんでも白狼に頼っちゃダメだよね。


「分かった。じゃあせめて、あんたのノートを見せて。最近あたし、勉強に身が入ってなかったから見落としがあるかもしれないし」


「zzz」


「良いってよ」


「ノートはカバンの中だってー」


「貸しはしないとおっしゃっているでござる」


「……りんごあめ」


「ただ呼吸してただけなのに、そこまで分かんのか。おまえらの意思疎通能力はどうなってんだ」


 ということで、あたしは白狼の机でしばらく勉強をすることにした。さすがいつも博識ぶっているだけあってきっちりノートを取ってある。あたしのノートより、何倍もわかりやすい。とりあえず、重要な部分だけ書き写して……。


「zzz……恋虎さん」


「ん? 何よ。って、また寝言か」


「zzz……僕と……」


「僕と?」


 あたしはペンを置き、白狼を見た。白狼は相変わらずすやすやと眠りこけている。


「僕と、なに? ねえ、白狼」


 あたしは白狼に近寄って寝顔をじっと見つめた。目から上はタオルで隠れているけど、本当に眠っているようだ。それにしても、肌綺麗だなこいつ。


「僕と………………つき……」


「僕と、つき?……えっ! それって!」


 まさか、「僕と付き合ってください!」 キャー! 白狼ったら! 愛の告白!?


 急にドキドキしてきたぞ。こんなことなら、リップくらい塗ってくればよかったな。


「ねえ、白狼。ちゃんと言ってよ」


 あたしは白狼に顔を近づけながら、一言を聞き逃さないように全神経を耳に集中させた。


「言いにくいんだけど……僕とさ……」


「大丈夫。ちゃんと聞いてるから」


 あぁ。どうしようかな。そりゃあ、白狼にはあたしみたいな超絶かわいい女子はもったいないけど、ずっと頑張ってくれたし、おかずくれたり意外と優しいところがあるから、あたしも白狼のこと嫌いじゃないしなぁ。


 もしそうなったら。あたしたちって、オンリーワンなカップルじゃない? なんてったってあたし達には特殊能力があるわけだし。


 あたしの彼が特殊能力者かぁ。ラノベみたいだなぁ。いや、そういえばまだ知り合ったばかりの頃、こいつ何か言ってたな。えーと確か、呪術。そう、呪術! あたしの彼はやさしい呪術師! キャー! イカすー! うへへ。

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