第8話 魔女のホウキ
現代人と中世人の二人が居るとする。どちらがどちらかを判別したければボウキを一本与えて見ればよい。そしてこう言うのだ。
「あなたが魔女だとします。さあそのホウキで空を飛ぶ振りをしてみてください」
このとき、柄の方を前に持って来るのが現代人。穂先を前に持って来るのが中世人である。
現代人はロケットというものを何等かの形で見ている。だからホウキをロケットに見立てて噴射炎となる穂先を後ろに持って来る。
中世での魔女が空を飛ぶのはホウキの穂先を馬のタテガミに見立てて、馬と変化したホウキに乗って空を飛ぶのである。(このやり方は東洋魔術では「方術」と呼ばれている)
現に空を飛ぶホウキ星(彗星)は進行方向に太陽光で蒸発した蒸気を噴き出すため、天文的にも穂先が先に来るのである。視力が良かった中世人はこれを見て、正しく論理づけたのである。だから中世人ならば迷わず穂先を前にする。
これが「時代の要請」というものである。
社会の中で生きる我々はそのときの技術や経済の形態に合わせて、教わるでもなく一種の常識とされるイメージを覚える。それは人々との他愛のないお喋りや道具を通じて、我々に自然に送り込まれる情報なのである。
時代の中に生きる人々は避けようもなく、その時代が提供する世界観を押し付けられることになる。そしてこのくびきから逃れられるのはごく一部の天才もしくは変人と言われる人間だけなのである。
彼誰(かはたれ)の蘊蓄 のいげる @noigel
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