第33話りんごとバナナといちじくは

「神さまたち、新郎新婦より目立ってたねー。

わたし、笑っちゃった!

でも、ロジペさん、顔真っ赤にして泣いてた。

ポンコさんまで泣いてて、びっくりしたよ。

実はいい人だったのかな」


「あはは!

おれの両親もなんか泣いてたよ。

大人って、そういうものなのかもよ」


夜明け前、3人は、大鵬の背に乗って遠い景色を眺めていた。


「ありがとう。

私を助けてくれて。

ゆきるとみちながいたから、全部うまく行ったのよ。

みんなで助け合って、奇跡をたくさん起こしたわね。

そうそう、ゆきるのパックパックにプレゼントを入れておいたの」


ゆきるがパックパックの中を確かめると、りんご、バナナ、いちじくが入っていた。

ゆきるは、バナナを手に取って、さっそく食べる。


「え!?皮の中が白いバナナなんて、存在するの?

普通、緑かピンクだよね?!

おれ、初めて見たよ。

味は、だいたい一緒だけど」


みちなもいちじくをかじってから、驚く。


「いちじくも、こんなの見たことがないわ。

中がオレンジ色じゃないなんて。

新しい品種なのかしら。

でも、美味しいからまぁいいか。

りんごは、中身の色、一緒みたいね」


しょうこは、呆れたのように打ち明けた。


「これは、隣の宇宙のりんごとバナナといちじくよ。

ちゃんと家を出るまえにバナナ食べてきなさいよ、ゆきる。

みちなは、いちじくが熟れていなかったから仕方ないけど」


「え?!

なんでおれがバナナ食べ忘れたこと知ってるんだよー!?

まさか、のぞき見でもしてた??」


「そうそう、わたしのいちじく、海の底になっちゃったよ」


しょうこは、笑いながら言った。


「でも、それがうまくいく唯一のパターンだったのよ」


「なんだよ、それ。

でも、まぁいっか、うまくいったし。

やっぱり、リーダーである、おれのおかげだな!」


「出た!ゆきるの、おれがリーダー!

まぁ、でも確かに、みんなよく頑張ったわ。

わたしは、なんだかんだ、楽しかったな。

これから世界はどうなって行くんだろう。

みんな、土地も財産もお墓や歴史を失って。

未知の大陸までできてるし。

神さまの話では、宇宙人までいるかもしれないし」


「たしかに、恐竜もモンスターもいるし、魔法まで使えるしね。

新築の家がなくなって、おれのお父さん泣いてたよ。

でも、ローンを払う相手も、もういないんだって。

生まれ育った町も学校もないし。

友達とも、また会えるのかな」


ゆきるは、日の出前、東の空に見える星を見つけた。


「ラッキー!明けの明星だ!

これから日の出だな」


朝日が昇って、世界を照らし始めた。

ひときわ高い山があった。

その中腹が大きくえぐれてクレーターになっていた。

その中心部に隕石だろうか、直径数十キロにもなりそうな巨大な黒い金属のようなかたまりが地面にめり込んでいた。


周りには見たことがない形の大きな島が幾つもみえる。

なかったはずの大陸のようなものも。


新しい世界に、朝が来た。


ゆきるは、口に手を当てると、抜けた乳歯を手のひらに出した。


「抜けた!抜けたよ!」


みちなは、歯の生え変わりを喜ぶゆきるに、冷めた口調で言った。


「わたしは、もうとっくに全部生え変わっているわよ。

まだまだ子供ね!」


ゆきるをからかいながら、笑っている。

しょうこもクスリと笑いながら言った。


「ゆきる、生え変わりおめでとう。

下の歯は上に投げるといいのよ。

お母さんがそういっていたわ」


しょうこがそう言うと、ゆきるは力一杯、空高く乳歯を投げ上げた。


大鵬は、雲まで届く大樹を飛び越えていく。

雲の下を見ると、そこには、三重の虹がかかっていた。


そして、盲目のしょうこは、ゆきるとみちなの手を握って大鵬の背中の上で立った。


「さぁ、下に降りて、様子をみてみましょう。

大丈夫。

今の私には、すべてものを等しく感じることができるの。

手っ取り早く、飛び降りるわよ!」


「え!まじ?また、おれ空を飛ぶの?!」


「そうこなくっちゃ!」


3人は、未知の大陸に向かって、飛び降りた。


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ネコを失った家出少女は墜落する飛行機に乗って異世界に行く 山本いちじく @ichijikuyamamoto

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