第32話ゆきるはしょうこにお守りを返す

「ふんふんふん!!」


「わわわ!

おれはどうして?

ちょっと!え?

プップさん!?」


朝起きると、おれたちはプップさんの両脇に抱えられていた。


ロジペさんが申し訳なさそうに言った。


「ゆきる殿、みちな殿、おはようございます!

少々強引で失礼しました。

なかなか起きなかったもので」


すると、プップさんごと、身体が宙に浮き始めた。

これは、パバリ王の魔法にマチガイない。


「ふぉっふぉっふぉっ!

急げ!急げ!」


「いつまで寝てるのよ!

あなたたち、呼ばれているわよ!

身体は回復してるはずよ?

私が治癒してあげたんだから」


パバリ王とペギルさんが、おれたちを急かしている。


「お兄ちゃん、なんで、裸にジャケットを着ているの?」


「僕らの結婚式のときは、シャツも着てよね!

あははは!」


ヤミー殿下とプッチさんが笑っている。

おれたちは、湖の近くに着地した。

半分寝ぼけて、よろよろと2人で立ち上がる。


ピカリ王が湖の手前に立っていた。

湖で大鵬とサイクロプスが何か話をしているみたいだ。

ピカリ王が、状況を教えてくれた。


「大鵬が、ゆきるとみちなを迎えにきたんだよ。

また、コントンが海から出てきたんだ。

そのモンスターが、ゆきるとみちなを呼んでいるらしいよ?

きっと、コントンに取り込まれたしょうこが呼んでいるんだよ!」


「まさか。

コントンが、おれたちを?

でも、確かに、そうかも。

コントンは、空に向かって、笑ってなかった?」


おれがピカリ王に尋ねると、みちなは言った。


「まず、わたしたちで確かめよう!

しょうこ、1人できっと寂しがってるよ。

早く行こう!

ゆきる、昨日は相当怖がっていたけど、大丈夫?

大鵬の背中に乗るのが怖いなら、ここで待っていてもいいわよ?」


おれは、恐怖で身体が拒むのを、無理矢理抑え込んで言った。


「何言ってんだよ!

行くに決まってるだろ?

リーダーが行かないでどうするんだよ!」


ピカリ王は、うなずいて言った。


「そうそう。

早くしょうこを迎えに行って、僕の結婚式までには帰ってきてね!」


おれたちは、みんなに見送られて大鵬に乗って飛び立った。


「ほほほほ。

待ちくたびれたわよ。

お寝坊さんね。

昨日は、ごめんなさいね。

ちょっと張り切りすぎちゃったわ。

今日は、ゆったり飛ぶから安心してね」


大鵬は、ゆうゆうと翼を羽ばたかせ、くるくると上空に登っていった。

確かに、今日は、乗っていても怖くない。

だんだん、慣れてきたのかもしれない。


コントン山の中腹に、巨大すぎるヘンテコなモンスターがいた。

山の大きさと比べても、ほとんど変わらない大きさだ。

空に向かって「はうはうはう、はうはうはう」と鳴いているようだ。

これは、笑っているのだろうか。


「しょうこだわ!マチガイない!

わたしたちを呼んでる!

大鵬、あのモンスターの真上まで行って!」


「ええ?

真上って、やっぱりそうだよな。

そうなるよな。

お守りだけ落としても、どこかに飛んで言ってしまうしな。

バックパックごと落とすしかないか」


「何言ってんの!?

友達にカバン投げたら悲しむじゃない!

さぁ、お守りは手に握って!

あれ?

今、パックパックの中にアルミの寝袋が、もう1つ入ってなかった?

ばか、ばか、ばか!ゆきるのばか!

もう!それは、もういいわ!

さぁ、わたしたちごと行くわよ!」


「え?!まじ?」


「まじよ!

ほら、行くわよ!

それ!」


おれたちは、大鵬の背中から、コントンに向けて飛び降りる。

不思議とふわふわと落ちていく。

ゆるゆるとコントンの上に着地した。

お守りは、コントンに、吸収されてしまった。

コントンは、どんどん小さくなっていった。

みるみるうちに形と色も変わっていった。

気がつくと、おれたちは10畳くらいの黒い正方形の上に座っていた。

コントンは、黒い立方体◾️になっていった。


黒い立方体◾️は、おれたちを乗せて、ふわふわと飛んで行った。

雲の上まで届く巨大なりんごの木の上まで行くつもりみたいだ。

振り返ると、後ろにあの神々もついてきていた。

変なタコの宇宙人みたいなやつもいる。


りんごの木の上に着くと、そこには右翼を失った飛行機が鎮座していた。

おれたちは、飛行機の上に降ろされた。


「やった!みんな、助かったのかな?!

そうだ、わたしたち、宿題をクリアしたものね!」


「フォッフォッフォッ!

そうじゃ、そうじゃ。

神さまは、約束を守るんじゃ

飛行機の中の人間たちは、眠っておるよ」


「ふふふ。

ちょっとサプライズプレゼントも用意してるけどね!

それにしてもあなたたち、よくやったわ。

やっぱり、あたしの加護が大活躍だったわね。

でも、それだけじゃ、うまく行かなかったはずよ。

おめでとう。

あなたたちの勝ちよ!」


創造の神と調和の神がふわふわ浮きながら、おれたちを褒めてくれた。


黒い立方体◾️は、どんどん小さくなって、飛行機の上に着地した。

すると、黒い立方体◾️の上部が蓋のようにパカンと開いた。


「いよいよ、正体が分かる時でっせ!」


おお。あのタコの宇宙人もしゃべるのか。

やはり、神さまの1人なんだろうか。


そして、黒い立方体◾️の中から、目を閉じたしょうこが立ち上がった。

ピーちゃんを抱えている。

見たことがないような服を着ていた。

首には、お守りがぶら下がっている。


神々は、しょうこの目の前でふわふわと浮いていた。

言葉を使わずに話し合っているように見えた。


「もういいかしら?

私は、ゆきるとみちなと再会を喜びたいんだけど?」


「まてまて!もう1つ教えてくれ、

改めて、いつから黒い立方体◾️の中に入っていたのか」


しょうこは、にやりと笑って、あのドヤ顔で答えた。


「箱の中身は、開けてみないとわからないものよ。

知ってるでしょ?観測することで、結果は変わるの。

それに、時間は、まぼろし。

たった一つの電子が世界の全てを作っているのよ。

私も、あなたも、すべて同じ」


何を言っているのか、全く意味が分からない。

しかし、しょうこが神々と対等以上に話をしているのが分かる。

神々もそれを認めているようだ。


すると、3人の神々は、しょうこの前に平伏した。

調和の神がうやうやしく言った。


「あたしたちを創った無名の神よ。

やっとお会いできました。

あたしたちの宇宙は、隣の宇宙と混ざり、おもちゃ箱の中身も溢れ出しました。

それでも不思議なバランスが生まれています。

生まれたての世界を一緒に見守らせていただきます。

海面上昇で、都市は水没しましたが、人間たちは、無事陸地に避難しています」


「フォッフォッ!

覆水盆に返らずじゃな」


「これが全一ですわ」


「禍福は糾える縄の如しとも言えるわ」


3人の神々は、それぞれにそう言った。


しょうこが飛行機の上に降り立つと、いきなり後ろから抱きしめられた。

それは、しょうこのお母さんのようだった。

小さい子どもがお母さんに泣きつくように、しょうこにしがみついた。

しょうこのお母さんは、しょうこのおでこに触れた。


「おでこのキズがあとに残らなくてよかった。

キレイに治ったわね。

なに?あなた、もしかして目が見えないの?

なんてこと!」


そう言って、またお母さんは、泣きながらしょうこを抱きしめた。


「私ね、お母さんに謝りたいの。

それに、いつも私のことを想ってくれて、ありがとう。

目のことは、気にしないで。

自分で選んだことだから」


しょうこはそう言って、お母さんの頭をなでた。

しょうこは、まるで自分がお母さんのように、子供のように泣くお母さんを抱きしめた。

しょうこは、穏やかで、優しい顔だ。


すると、聞き慣れた幼い声がした。


「にいちゃん!

どこに行っていたの?」


「りゅうじ!

どうしてここに?

こんなところに登ってきたら、危ないじゃん!

お父さんとお母さんは?」


「ゆきる!服がボロボロになってるわよ?

せっかくお母さんがキレイに洗っていたのに!

それに何よ、ここは。

寒いわ」


確かに服を見ると、ボロボロになっていた。

お母さんの横にお父さんもいた。


「お父さん怪我してない?

大丈夫?!」


「おお。ゆきる、どうしてこんなところに。

いや、そうなんだよ。

何かが身体に刺さって、身体を貫通していた気がしたんだけど。

夢だったのか、身体には1つもキズがないよ。

大丈夫。

お前、なんかすっかり大人っぽくなったな。

何があったんだ?」


みちなもお母さんとお父さんと再会したみたいだ。


「お父さん!

どうしてここに?

空港で待ってたんじゃなかったの?!」


「いやぁ、それかま気がついたらここにいたんだよ。

隕石もどこかに消えてしまったし。

どうなっているんだろう」


みちなのお母さんは、お父さんに抱きついて震えていた。


「姉上!もう会えないものかと・・・

我が輩は、役目を全うできましたよ!」


しょうこのネコとピーちゃんも再会できたみたいだ。


多分これは、神々からのプレゼントだろう。


しょうこは言った。


「さぁ、みんなでピカリ王の結婚式に向かいましょう!

飛行機の中の人たちも、神々も!」

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