幸せのなり方

米太郎

幸せのなり方

親切をすると、自分に幸せが返ってくる。

昔、母が教えてくれた。


本当にそうだったら、私にも返ってきて欲しいよ…。



ガタン、ガタン。

今日も電車に揺られ、職場へと向かう。



乗客は多くないが、席は埋まっており立っている乗客もちらほらいる。

優先席には年配客が座っているが、それよりも年配と思われる女性が手すりに捕まって立っている。

曲がった腰で一生懸命立ち続けており、電車が揺れる度に力無い体は揺れて辛そうなことが一目でわかる。





「おばあさん、席譲ります。」





遠くの座席から、高校生くらいの青年が勇気を出して声を上げた。

目の前に座っていた乗客は、他人事のように携帯電話をいじり続けていた。

 

青年はおばあさんのところまで行くと、手を取り揺れる社内で自分が座っていた席まで誘導した。


「どうもありがとうね。とても助かったよ。」


おばあさんは青年に優しく微笑み、席に着いた。

青年は良いことをしたと、表情が輝いていた。



青年の顔に輝きが増したかと思うと、その輝きは青年の横に回り込んだ。


…なんだ…?


目を凝らしてみると、キラキラと光る小さい妖精が飛んでいた。

蝶のような羽をひらひらと羽ばたかせて、キラキラ輝く鱗粉を振りまきながら青年の周りをまわっている。私だけが見えているようであった。


‌‌…私、疲れているのかな…。


‌幻覚でも見ていると思い、吊革に体を預けて目を閉じる――。



――ガタン…。

‌電車が揺れを止め、次の駅に着いた。



青年のそばを飛んでいた妖精は見えなくなっていた。

…そうだよね、見間違いだよね。



青年は電車を降りていく。



…さて、今日も仕事頑張るか。

自分も一緒に電車を降りていく。




改札を出たところで青年が声をかけられていた。


「…私、先輩のことが好きです。付き合ってください。」


…おお、朝からお盛んですねー…。

青春の一ページを横目に通り過ぎる。



「…実は俺も、前から君のこと気になっていて…。」


…見事カップル成立おめでとう。


その時、先ほどのキラキラした妖精が見えた。


…え?


キラキラが高校生カップルを包みこむと、淡いピンクへ色の光へと変わった。

見つめあう二人の間に、先ほどの妖精が飛んでいた。笑っているようであった。


…妖精。…見ちゃった…。



瞬きをした瞬間、また妖精は見えなくなった。

…確かにいたよね…。

 

驚きのあまり足を止めてしまった。きょろきょろと周りを見るが、キラキラと光る様子も無く妖精は消えていた。



「…あー、携帯充電切れちゃった…。…待ち合わせなのに連絡取れないなんて最悪…。」

先ほどとは別の女子高生が駅前でつぶやいている。


電車が着いたばかりということもあり、駅前は人込みで溢れていた。

 

…ご愁傷様。充電し忘れるなんてかわいそうに。この人込みじゃ見つけられないよね…。


女子高生の横を、赤ちゃんずれの女性が通り過ぎて行った。

赤ちゃんは、可愛く足をフリフリしてお母さんとのお散歩を楽しんでいるようであった。

足を振りすぎたのか、靴がぽろっと取れて地面に落ちた。


「…あ、赤ちゃん靴落としましたよー?」

女子高生が率先して靴を広い、お母さんの元へ届けてあげた。



「ありがとうございます。」


すると、女子高生がキラキラと光りだした。

また、ひらひらと妖精が出てきたのだ。


女子高生の周りを飛んでいたかと思うと、そばを離れて遠くの方へ飛んでいった。

妖精が通った道筋が輝き、そこだけ人の流れに切れ目ができていった。


…モーゼの海割りみたい…。…綺麗。


人の波が切れた道の先で、妖精は止まった。


「裕子―!」

女子高生は叫び、光の道の先へと走っていく。


「携帯充電切れたから会えないと思ったよ。見つけられてラッキーだよ。一緒に学校行こう!」


二人の女子高生は手を繋いた。

頬を赤くしながら駅を離れていった。

キラキラと二人をピンク色の光が包んでいた。



…妖精だ。妖精っているんだ…。

こんなことって本当にあるんだ…。

 

…って、そんな場合じゃない。私は早く会社行かないと。


振り返ると、スクランブル交差点の信号は赤色であった。

…信号逃したか…。…待つか…。




横から風が吹いたかと思うと、一人の少年が走り抜けていった。


「待って!信号は赤よ!!」

後ろでお母さんらしき人が叫ぶが、子供は聞いておらず交差点へ走っていく。


…危ない!

気が付くと、私は無我夢中で少年を追いかけていた。




キキーッ!




車のブレーキ音が響いた。





「あぶねーだろっ!!飛び出してくんなっ!!


間一髪。私は少年の手を引いて、少年が車の進路へ入ることを防いでいた。




「…あぶなかった…。ケガはない?」



「…飛び出してごめんなさい。お姉さんありがとう!」



パチパチパチ。


信号を待っていた観客から拍手が沸いた。


…へへ。いいことはするもんだな…。…ちょっと恥ずかしい。



拍手が鳴る中、見覚えのある男性が話しかけてきた。


「…もしかして、あなたは高校の…」


…高校の時に、憧れていた先輩だ…。



思わぬ状況で再会を果たした先輩と私は、ピンク色のキラキラに包まれていた。


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幸せのなり方 米太郎 @tahoshi

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