世界初のカウンターマーチ(前進のみですが)




「全員、傾注! これより死地へ赴く。心を極めよ。第5攻撃陣型改。バディごとにツーマンセル。1名は背負子で矢を防御。6丁の鉄砲を携行。後ろの射手に順次手渡せ!

 第2・第3・第4の順で、交互射撃で行進する! 後退はしない、前進のみだ!!

 行軍距離150m。190歩。そこからは上泉様と私、それと副官だけで前進する! 各自それを援護せよ。

 弾は各自45発は残っているな。だったら敵2000を倒しても、まだおつりがくる。お残しはあきまへんで~!」


 最後のセリフは、よく殿さまが言うものだ。意味は不明。


 皆がニヤニヤ笑う。

 士気は上等ね!


「では陣形編制! 第2より行軍開始!!」


 最近公園で開発された砂時計で1分で計ると、1分60歩の速さ。ゆっくりと敵の本陣1200へ近づいていく。

 敵は品川の北門からの守備兵の突出に備えて、600以上は向こうを向いている。

 東の小宮山は寡兵の上、疲労が著しい。

 西は……


「大隊長。西目黒川沿いに味方竜騎兵、およそ200! 距離500。馬場勢と交戦状態に入ります!」


 間に合った!

 後方撹乱に出ていた第4旅団の竜騎兵が西方面を遮断したらしい。あとは海岸沿いに平地があるけど、ほとんどが湿地帯。逃げ場は北西の台地だけ?



「天は我らに味方した! 敵の中央を分断する!」



 敵の弓兵が遠矢を射だした。

 距離150でなら、顔面でも射貫かれなければ問題ない。


「まずは弓兵を排除!」


 第1列目が立ち止まり、立射で7連射。42発が敵へ飛ぶ。

 22人の弓兵が倒れる。

 第2の12人は、その場で弾込めを始める。


 第2列目。6名の第3中隊射手が、7連射。28人の敵が倒れる。


 第3列。第4中隊。

 既に距離80。

 弓が当たり始めた。背負子に数本当たる。

 立ち止まり、7連射。

 31人が倒れる。


 もうほとんどの弓兵が倒れたために後ろへ下げられる。

 矢盾は見当たらない。

 全て南へ向けられているらしい。


 20人が横10列、200人の長柄がこちらを向いている。

 48人相手に近接戦準備ね。多すぎない?

 そこまでしなくてもいいのに。

 長柄なんて役に立たないことといったらない。

 頭の固い人達ね。


 両側面から、手槍装備の徒武者が50人ずつ突撃してきた。


「第1、側面射撃!」


 予備兵力の第1を投入。

 30人以上が地獄へ突撃していった。

 残りは怯み、立ち止まる。


 長柄の槍衾が迫って来た。

 もう目の前。


「散弾発射!!」


 皆の腰に吊るしてあった、ブランダーバスという喇叭らっぱ型の銃を各自2発敵の顔に向けて撃ちまくる。


 たいした被害は与えられないけれど、5m以内で小豆大の散弾を受けたら、顔でなくとも甲冑の関節部分に当たる。自分に弾が当たったことだけで恐怖を受けるだろうね。そんな経験していないだろうから。


 200人の槍衾が一瞬にして崩壊した。

 目の前には、もう信繁の馬廻りしか残っていない。


吶喊とっかんする。各自の判断で援護せよ! 上泉様、先陣を」


 槍を掻い込んだ剣聖様。

 大きく頷くと、戦場全てに響き渡るような咆哮をあげて、駆け出した。


「上野国住人、上泉伊勢守信綱! 

 武田典厩殿の首を所望致す。

 これよりは某の前に立ちはだかる者、命無いと知れ! 

 いざ、参るっ!」


 私と詩歌はその影に隠れて敵本陣へひた走る。


 でも……

 速すぎるでしょ? 剣聖様。

 置いて行かれました。

 こっちは重い鉄砲持っているんだから。


 でも皆の注意が、吶喊する剣聖に釘付けになっている。さすが天下に名だたる剣聖。

 すみません。

 囮になってもらい。


「詩ぃちゃん。行くよ!」

「……承知」


 いつもの無表情を見ると落ち着く。


 標的までの距離100。

 いえ、120か。

 これなら確実に……


「慢心は駄目」


 詩歌がいさめる。

 お見通しね、この子。

 伊達に5歳から一緒にいるわけではないのよね。

 やれやれと言う表情でいつもの狙撃態勢に入る。



 見えた!

 敵大将、武田晴信の弟、典厩信繁。

 水牛の角二本。胴に武田菱。


 この距離ならば、普通の狙撃兵だったら二連弾で胴の中央を狙う。それでも10中5も当たらないわね。

 でも、私達、八咫烏の者は頭を狙ってヘッドショット確実に葬れる。

 ライフル銃ならなおさら。


 これも大胡の技術の勝利。

 この公園育ちの腕前、頭に刻んであの世へ行きなさい!



 ずががが~~~ん!!!



 当たったヘッドショット

 完璧クリティカル


 その脇を剣聖様が通り抜ける。そして確実に信繁の息の根を止める。

 片足を引きずる片目の男を、槍玉にあげてからさっきよりも気迫のこもった咆哮をあげた。


「大胡左中弁政賢が臣、上泉信綱。

 武田典厩信繁が首、討ち取った!!!!」



 全ての敵兵がたたらを踏み、すくみ上る。

 そこへ八咫烏大隊の銃撃が降り注ぎ、恐慌を生む。

 今度こそ武田勢は壊乱し、敗走を始めた。



 剣聖様には悪いけど、私と詩歌は隊の方へ駆ける。

 風になびく左右二つの髪の毛が邪魔ね。今度、奥方の楓様に髪をもっと纏まる形にしていただこうと切に願ったわ。


「損害報告!」

「第1中隊、戦死1、負傷2。内、一人重傷!」

「第2中隊、戦死なし。負傷3。重傷なし!」

「第3中隊、戦死2。負傷3、重傷2!」

「第4中隊、戦死なし。負傷5、内、重傷3!」


 戦死3

 重傷6……


 損耗率、2割行かなかった。

 許容範囲。

 でも、9人は助からないでしょう。

 負傷者も多分半数は不具。


「お姉ぇ、頑張った。みんな」


 詩歌が慰めというよりも、現実を認識させようと私に話しかける。


「そうね。2000の兵に対して49人で戦って大勝するとか。戦史上ないでしょう。金輪際」



 後ろから親衛隊に守られて、殿さまがやって来た。


「蘭ちゃん、詩ぃちゃんよくやったね。みんなも頑張った。今度、夜泣き蕎麦みんなで食べよ。涙でしょっぱい蕎麦は格別うまいんだよ。僕なんかいつも食べている」


 奥方様の楓様がよく仰っているわ。

「殿は、それはよくお泣きになる」と。



 だがこんな時は、このセリフを言えと殿さまに教えてもらった。


「だが断る!」


 殿さまは、眼をアサリ貝くらいの大きさに見開き、その後に大笑いを始めた。



「はははは! それ、使い方間違ってる~~♪ 今度教えるね、本来の意味~」


 少し緊張がとけたみたいね、殿さま。

 私、知っているよ、ちゃんと。

 使い方。

 でも殿さまが一番悲しむんだ。一番緊張するんだ。

 少しは慰めないとね。笑わせないとね。


「上に立つものは孤独だ。そして一番苦労する。そうしないと部下が苦労して困り果てる。だからね。蘭ちゃんは僕よりも楽していいんだよ」


 そう言われた私は、部下の皆を見てこう言った。


「部下が私を支えます。だから私が殿さまを支えますから、どうか天下を取ってください。平和な世を作ってくださいませ。そのためには私達八咫烏、大胡の先導役、先駆けをいたします。

 どうかこき使ってやってください!」


 狙撃兵の野太い声が同意を伝えて来る。

 そのムサい連中の軽やかな声が、血なまぐさい戦場だった場所をさわやかに駆け抜けていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




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 この作品は拙作

『首取り物語:上杉武田北条の草刈り場でザマァする』

 のSSです。

 もしご興味が沸きましたらこちらも御贔屓に♪


 https://kakuyomu.jp/my/works/16816700428374306619


 ついでに最新作を。


 光秀に転生したけど本能寺なんかせず天然娘達とオタク文化広めてスローライフ!のはずが信長様に気に入られ重用される上、俺の活躍に嫉妬した秀吉が闇落ち!?秀吉よ、手伝うからさ天下取って俺に楽させて!


 https://kakuyomu.jp/works/16817330647991289437


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転生者が趣味で作った狙撃兵大隊が40倍の武田軍団を蹴散らす。「可憐な乙女に何ていうセリフ言わすのよ。もうあたしお嫁にいけない(涙目)」「お姉ぇ、心配するな。ムサい男なら沢山慕ってくれてる」 🅰️天のまにまに @pon_zu

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