第6話(終)
翌年、アタシはいつもの時期になったので、魔法で空を飛び、エマのいる山へと降り立った。
やっぱり自分の居場所が世界の中にあるっていうのは違うわねぇ。
ま、寄る国々で問題起こして嫌われ者になってるアタシが悪いんだけど。
今はのんびり休むわ、エマに話したい旅の話も沢山あるんだから!
「エマ、ただい――」
そんな浮かれるアタシの目の前に広がっていた景色は……なにもかもが見るも無惨に変わり果ててしまっていた。
「どうして……何があったのよ……」
まず、緑がない。自然がない。
いや、それどころか、家もない、牧場もない、あの馬鹿みたいにダサいハートの芸術品もない。
山にはエマがいた証が何にも残っていない。
アタシは全身に寒気を覚え、恐る恐ると山を降りて下の王国へと向かった。
***
「はぁ、ふざけんじゃないわよ! なんなのよこれ!」
今アタシがキレた場所は街の本屋だ。
そこには童話本として『“嘘つきの魔女”エマ』なる本が陳列されていたのだから。
「魔女が死んでもう1年か。時間が経つのは早いな」
「あんな嘘つきのこと想う必要ねぇだろ」
「嘘の論文で成り上がって大富豪、そして最後はバレて火刑? まさに魔女って人生感じだよな」
街の民衆の声に耳を傾けてみると、より胸糞悪い気分にさせれてしまった。
誰も彼もが、エマの悪口を言っている。
ていうか何!? 死んだ!? エマが!?
信じられない事実を突きつけられたアタシは、必死になって国中を駆け回った。
本当に死んだのなら墓ぐらいはあるはずだ。探さなきゃ、エマが生きてた証を探さなきゃ。
ア タ シ の 大 好 き な エ マ が 本 当 に 何 者 で も な く な っ ち ゃ う じ ゃ な い の。
そんなの絶対に嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
***
「ハハハハハハハ!!!!!! ハーハッハッハッ!!! こんなことって許されんの!?」
アタシは世界最強の女。
街を一周するには1分もかからなかった。
そして、それを見つけてしまう。
あまりのショックに強く地団駄を踏んだ。受け入れられないわよ。こんなの。
だって、
だって、
目の前にあったのは、地面に放置され『“嘘つきの魔女”エマ・O・ノンナ』と札をかけられた頭蓋骨だったから。
信じられない。信じたくない。こんなことが起こった現実を。
きっとアタシのおかげで成り上がったエマが誰かの反感を買って恨まれて……最終的にはあるっことないことを言われ続けながら全てを奪われ焼き殺された。そんな悲しいシナリオなんでしょうね。
ええ、わかったわ。
アタシのやるべき事を。
忘れてはいけない。アタシの2つ名は〈大炎の魔女〉。この国を焼き尽くしてあげるわ。
「だから手を貸して、エマ。一緒にこんな
彼女の頭蓋骨を右腕に抱え、アタシはエマと二人一緒に魔女になった。
***
アタシは元々エマのことが好きじゃなかった。
不器用だし、童貞臭いし、友達もいないし、あんまり関わる気にはなれなかったけど、一宿一飯の恩義ができたものはしょうがない。成り行きで恩を返してみれば大喜びされて、ちょっとこの娘に付き合ってあげてもいいかなと思えてきたの。
それから縁を深めていくと、エマは私のことが愛を持って好きなのだと読み取れた。
じゃあ、とデートに誘ってみたらこれがまた楽しくて、もっと一緒にいたくなってしまった。
だから、恋人関係になろうかと無理矢理キスをして、断りにくい雰囲気まで作った上で告白した。そしたらあの娘は当然のようにイエスと答えたのよね。チョロくて、可愛かったわ。
以後、彼女と年に一度仕事を手伝う形で会うのが当たり前になった。
あの日々は楽しかった。
1年、また1年と距離が縮まっていく。
エマと触れ合うことでアタシの心も大きく形を変えていって、気付けば最初に嫌いだった部分が全部好きになっていた。
本当に大好きになったのよ、エマのことが。何もかもを許せるぐらいに。
特にあのハートの花壇には驚いたわ。ホントぶっさいくなのに、気持ちはこれでもかと伝わる。ほんの一瞬だけだけど、この娘となら一生を通して一緒にいたいとさえ思えた。
――なのに、あの娘は王国に殺されたしまった。
すべてを奪われて、消えてなくなった。
アタシはもう1000年は生きている、その中で旅を続けて来た分恋愛経験も1人や2人なんて数じゃない。
ただ、彼女たちと別れる時は、寿命の差か、単に喧嘩別れか、ありきたりで些細な、お互いに諦めのつく理由しか今まで経験してこなかった。
なのにエマは……エマは……アタシの見えないところで、殺されたんだ。
納得がいかない。
受け入れきれないこの事実にアタシの怒りの心はすべてを焼き尽くす焔の如く燃えている。
もう誰もアタシを止めることなんてできない。
こんな
***
「〈セカンド・ファイアレイン〉ッ!」
アタシはあらゆる中級魔法を詠唱なく、無制限に使える。なんてったって世界最強の魔女だから。
唱えたのは小さな太陽を天に呼び出し、そこから無作為に炎の雨を降らせる魔法。
「きゃああああああなによあれええええええ」
「魔女だああああああああああああああ」
「逃げろおおおおおおおおおおおお」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!」
この雨は住宅、飲食店、道具屋、武器屋、役所、あらゆる建物に触れては着火させ、手始めに半径100mは火の海にした。
人間に当たろうがお構いなしだ。火だるまになった人影が視界にこれでもかと映っていく。
「女子供? 種族? 観光客? そんなのは関係ないわ。貴女を何者でもない人間したこの
エマの亡骸を抱えながら、語りかけるようにアタシはつぶやく。
今までの長い人生、好き勝手にしてきたけど、虐殺なんてしたことなかった。
別にやっていて気持ちいいとも思えない。でもしないといけないの。
エマのために。ええ、エマのために。
「あれは〈大炎の魔女〉か!? 今すぐ殺せ! ヤツを逃すなー!」
そういえばアタシは11年前、この国でグーラレルーナ伯爵とかいう貴族セクハラ発言をされて、苛立ったからと顔面が変形するまで殴ってお尋ね者になっていたんだった。そのせいで顔が割れてるのよね、どの施設でも。
あの時は食べ物の確保に困ったりで大変だったけど……そんなのは関係ないか。
なんてたって、今、目の前には西洋甲冑を纏った国の兵士たちが剣を構えてアタシを取り囲んでいる。
こいつらをどうしてやろうかしら。
うん、そうね、火刑よね。
この国そのものを火刑に処す。それがエマとの正しい別れができなかったアタシの使命なんだから。
「〈セカンド・ファイアストーム〉ッ! 〈セカンド・ファイアストーム〉ッ! 〈セカンド・ファイアストーム〉ッ! 〈セカンド・ファイアストーム〉ッ!」
狙いすました場所から炎の竜巻を出現させる魔法を同時に4つ唱えた。アタシを取り噛む四方すべての兵士を巻き込んでいく。これは、詠唱破棄ができるかこその荒業だ。
「あついっあついっ」
「あがっ」
「嫌だあああああああああああああ死にたくないいいいいいいいい」
炎に触れた兵士は踏んずけられる虫の大群が如く勢いで次々と焼け死んだ。加えて、竜巻の中にいた兵士もまた、周囲の気温が何百度と上昇した状態となり甲冑が熱伝導を起こして蒸し焼き状態となり溶けて鎧と骨だけになる。
これも一種の火刑でいいわよね。
手をパンパンとはたきながら、ここでの火刑は一旦終わりとした。
***
「〈大炎の魔女〉よ、お前と勝負を望みたい」
「ふぅん、骨の有りそうなやつもいるのね」
次に燃やす場所を探していると、目の前に武道着の男がなにかの拳法を構えて立ちふさがった。
きっと旅の武闘家かなにかでしょう。
魔王を引き分けに追い込んだアタシと勝負して、あわよくば勝って名声もほしいとか、そんな強欲なヤツ。
「『我が魔の力よ、魔法を防ぐ結界を創り給え』〈セカンド・マジックフィールド〉! さあ、お前は中級以上の魔法は使えないはずだ、それに近づけば拳で対処する、詰んだに等しいなぁ!」
男は顔を合わせたかと思えば魔法を詠唱し、中級以下の魔法をすべて無効化する結界魔法を展開した。
――なんだ、そんな程度の魔法が通用すると思ってる雑魚かぁ。
アタシはその手を事前に察知し、相手が魔法を詠唱するために口を開いた瞬間に距離を詰めて肉薄したていた。
「魔法も武術も全然ダメ。-100点」
「なっ!?」
武術を使わせることもなく、首を掴んで天へと掲げていく。
アタシは古今東西あらゆる武術をマスターしている玄人よ? なんでこいつはただの魔法使いだって解釈したのかしら。バッカみたい。
普段ならいずれ立ちはだかる新たなライバルになる事を祈って死なない程度に首を絞めて終わりにするけど……
「〈セカンド・イグニション〉」
今回はみんなみんな、火刑に処さないといけない。
手を媒介に一瞬だけマグマに等しい熱量の炎を発する魔法を唱え、武闘家を消し炭にした。
「次は王様かしら。ふふふふふ、逃さないわよ」
エマの亡骸と一緒に、笑いながら街に大きくそびえ立つ宮廷へと足を運び、その過程でも街や人を燃やしていった。
***
「〈大炎の魔女〉が侵入してきたぞー!」
「王の元へ近づけるなー!」
「邪魔よ。〈セカンド・フレアボール〉ッ! 〈セカンド・フレアボール〉ッ! 〈セカンド・フレアボール〉ッ!」
「ぐわぁぁぁぁぁあ」
「やけしぬうううううう」
「だずげでええええええええええ」
アタシはこの国の宮廷へと侵入し、波のように押し寄せる兵士たちを前に、等身大の火球を飛ばす魔法を押し付けてドミノ倒しのように燃やしていく。
「……なに!? 〈大炎の魔女〉!?」
そうやって兵達を焼き殺しながら宮廷の中を駆け回っていると、金色の冠を被り、赤いマントを身に着けた王様らしき男が城から逃げている姿を見つけた。
ラッキー! わざわざ探さなくて済んだ!
「や、やめろ! わしには家族がいるんじゃ! これ以上殺すのはやめてくれ」
いきなり命乞いをしてきたけど、なんだろう、まともに対応するのがめんどくさいわね。
「知らないわよそんなの。そんなこと言い出したら、アタシにだって肉親ぐらいはいるっつぅの! 〈セカンド・フレアボール〉」
「あがあああああああああああああああああああああああああ!!!」
エマの亡骸にしっかりと燃え盛る王様の姿を焼き付けてあげた。
どう、貴女を苦しめた国の王様が死んだわよ?
え、そっか、まだ足りないんだ。
そうよね。
だから続けて、家族も全員、一族郎党すべて焼き殺してやった。
慈悲? そんなのを持つのはエマに失礼よ。
***
案の定学者たちにはコミュニティがあるのか、一箇所に集まって隠れていた。
アタシに見つかると、彼らは一目散に逃げ出す。
彼らもきっとエマを追い詰めた犯人の一角だ、火刑に処さないと。
「なんでだ、魔女は消えたはずだろ!」
「それがね、本当の魔女はアタシだったの。〈セカンド・イグニション〉」
逃げ惑う彼らよりアタシの方が足が早い。
一人一人追いついて、首を掴んで発火魔法で消し炭にしてあげた。
この魔法の瞬間火力は凄まじく、発動と同時に即死してしまう。けど、おかげで仲間たちが断末魔をあげる隙もなく死んでしまう姿に恐怖していく顔が見れるんだから、これもこれで最高ね。
そして、最後のひとりになった時、その学者がこんなことを言ってきたのは印象深かったわ。
「か、金ならある! 王から資金援助を貰ったんだ、な、な?」
「は? 〈セカンド・イグニション〉」
もちろん気に入らないから燃やしたけど。
今はお金なんて不必要。
そんなのでエマが帰ってくるわけじゃないもの。
***
「ぎゃあああああああああああああ」
「もう嫌だあああああああああああああああ」
「目が、目が焦げてるうううううう」
「腕がああああああああああ」
ここは、鳴り止まぬ悲鳴が街中を包み、死屍累生の四面楚歌な世界だ。
更に、時間が経つにつれ耳に響く人の悲鳴が、じわじわ、じわじわと、炎がメラメラと燃え、建物が崩れ落ちる音へと変わっていく。
燃えていない建物は存在しない。これで終わったんだ。
「どう、エマ。いい景色でしょ」
そんな私に、
……エマの声が聞こえてきた。
『いや、それでも足りないッ!』
ああ、なるほど。
何者でもなくなったエマは、この国自体を完膚なきまでに消してほしいんだ。
ええ、きっとそういう意味なんだわ。間違いない。
「〈セカンド・アースクエイク〉ッ! 〈セカンド・アースクエイク〉ッ!! 〈セカンド・アースクエイク〉ッ!! 〈セカンド・アースクエイク〉ッ!!!」
彼女の声に従い、街の至る所に小規模の地震を引き起こす魔法を叩き込み、建物を丁寧に崩していく。
「〈セカンド・マグマフレイム〉ッ! 〈セカンド・マグマフレイム〉ッ!! 〈セカンド・マグマフレイム〉ッ!! 〈セカンド・マグマフレイム〉ッ!!!」
そして溶岩を生み出す魔法で崩れた瓦礫をチリひとつ残らずこの世界から消し去っていった。
――
――――
――――――
気づけば、国も、人も、あの山も、すべてが無に帰した荒野へと変わり果てていた。
これでいい。すべては終わった。
魔女としてアタシができることは全部やったんだから。
ええ、この
あぁ………………、そうだ。
私、貴女に言いそびれてた言葉があったわね。
一度瞬きをしつつ、小さく、ポツリとアタシはつぶやく。
「さよなら、エマ――」
その言葉を最後に、エマと唇を重ねた。
世界最強の魔女を拾った植物学者のエルフは彼女と共に数々の新発見をするも妬まれ最終的には国から嫌がらせを受けたので仕返しに2人で王国ごと燃やすようです リリーキッチン百合塚 @yurikiti009
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