第8話 変なこと言っちゃった⁉
りりはもう能力を使う心配はないだろうが、他のメンバーに関しては分からない。そもそも、他のメンバーの能力や反動が分からなければ太刀打ちしようがない。自分と同じように反動が小さい者が残酷な能力の使い方をする可能性を考えると、せいらはゾッとする。しかし、数日間は特に何もなく安心していた。
そして、ローシュタイン初のテレビ番組出演の日が近づいてきた。
まだデビューもしていないこのグループだが、有名プロデューサーが莫大な広告費を使って立ち上げたグループだけあって、顔出し程度の挨拶を人気音楽番組でさせてもらえるようだ。初めてのテレビ出演である上に、生放送なので、せいらは珍しく緊張をおぼえていたが、ここでかませなければ到底トップアイドルになどなれないこともわかっている。
とうとう当日になり、5人は東京キー局の楽屋に集合していた。慣れているりり以外は落ち着かない様子である。
「そうだ! お茶をして落ち着きましょう。お菓子を作ってきたんです」
雪町さなが小分けにしているクッキーの袋を取り出して配った。
「緊張した時にお菓子を作ると心が和らぐんで、作りすぎちゃったんです。はい、マリアちゃんには可愛いリボンつけたのあげる」
「子供扱いしないでください!」
「ありがとなー、さな」
自販機で買ったお茶と伴にさなのお手製お菓子を食べる。だが一人だけ何も口にしない人がいた。
「ごめんなさい。私、本番前は何も食べないようにしてるの。後で頂くわね」
りりは高いプロ意識からか本番前には食事すらしないようだ。せいらはこういう所を見習わなきゃなと思いつつも、今日だけは良いかと最後の一枚までたいらげた。
とうとう本番が始まり、メンバーたちはスタジオ裏で待機をした。
自分たちの出番がとうとうやってきて、スタジオに入る。カメラの向こうに数多の視聴者がいると考えると足がすくむが、打ち合わせどおりなら自己紹介の後に司会者からの質問に答える簡単な仕事だ。
スタッフから指示された通り、左から
さな みちる せいら りり マリア の 順で並んだ。
5人は順番に自己紹介をして、質問に答える。一番口が上手なみちるが中心となって、スタジオを盛り上げるトークが繰り広げられていった。自分の長所をキチンと活かしているみちるに、やはりこのグループでは気が抜くことができないとせいらは思った。
「みんなはなんでアイドルになろうと思ったのかな?」
好感度が高いことで有名な司会者が優しい口調で尋ねてくる。全員が答える必要がある質問であるので、一際目立つ返しをしなければいけないと思考を巡らせる。
「まずはさなちゃん!」
「私気が弱くて、臆病で、そんな自分をアイドルになって変えたかったんです!」
左から順番に答えていくようで、さなが自分のキャラ設定にあった返しをした。
「さなちゃんなら絶対に素敵なアイドルになれるよ! えーと、次はみちるちゃん!」
「せやなー、うちはめちゃくちゃチヤホヤされたいねん。モデルになって女子に憧れられまくって、男子から告られまくってなー、イケメンともエッチしまくったんよ。あ、うちめっちゃエッチ好きやねん。でも、それじゃ足りなかった。もっといっぱい日本中に祭り上げられてチヤホヤされたい。だから注目を集めまくってる新星アイドルグループに入ったんや」
みちるが突拍子もない事を言いだした上に、アイドルとしてタブーである発言をした。さっきまで気の利かせた返しをしていたみちるの突然の告白に全員が静まりかえる。この発言は生放送であるから、取り消すことができない。だが、みちるは先程までと同じようにうまい返しができたという満足げな顔をしていた。
(何いってんだコイツ…)とせいらは思ったが、次に質問されるのは自分だ。グループのためにみちるをフォローした上で、自分が目立つ発言をしなければならない。
「あはは…変わった理由だね… 次はせいらちゃん。ネットでも可愛すぎるって話題になっていたせいらちゃんはどうしてアイドルになったのかな!」
司会者の高いテンションからは場の空気を盛り返そうとする努力を感じた。
「そうですねー、おっしゃる通り私ってめっちゃ可愛いんですよ。だから、ブサイク達と一緒にいても張り合いがないんですよ。ブスはつまんないし、ほんと嫌いです。そういうことで可愛い女の子たちと勝負がしたくてアイドルになりました。ああ、みちるがさっき言ったことも理解できますよ、かわいい私達にはチヤホヤされる資格があります!」
完璧な返しができたとせいらは思った。だが、となりにいたりりは顔を真赤にしてワナワナと震えている。そして、とうとう我慢しきれなくなったように、せいらの方を向いて、肩を掴んで揺すってくる。
「あんた何いってんの! どうかしちゃったの? それともドッキリか何か?」
「なんですか、りりさん。みちるをフォローしたし、面白い返しもできたんですよ!」
「正気に戻りなさい!」
りりはおもいっきりせいらにビンダをした。
せいらは何がなんだか分からないが、メンバーを含めてスタジオ中が慌てふためいている。
「一旦CM入りまーす!」
生放送で想定外の状況になったためか、CMに切り替える宣言を司会者がした。これが放送事故というものだろう。
「君たちの出番はここまでね」
番組ディレクターがにべもなく言い捨てる。
5人は楽屋に暗い顔で戻った。その時、せいらは自分がおかしな発言をしたことを認識し、なぜあんな発言をしてしまったのかと混乱した。みちるも同じタイミングで気づいたらしく、動揺を隠せていない。
「あんた達、ほんとにどうしたのよ?」
りりが心配そうに尋ねる。
「分かりません。さっきまであんな発言をしたことすら不思議に思っていませんでした」
「うちもや。あんなこといったなんて…」
せいらが強いメンタルをしていることもあるが、全国に向けて自分の性事情を話してしまったみちるは特に意気消沈しているようだ。
こんなことになった理由は一つしか考えられない。十中八九他のメンバーの能力によるものだろう。
せいらがすぐにタイムリープするべきが悩んでいると、りりが耳元でいった。
「せいらにも反動はあるんでしょ。それは最後の手段にしておきなさい。私も協力するから、力を使わずに何とかする方法を考えましょう」
タイムリーパーアイドル、センターを目指す! 目茶舐亭おしるこ @tanukiudonn
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