第7話 仲良くなれたのかな?
せいらはりりとの交渉をうまく進めようと思った。
「炎城さん。あなたが私に念写を使わないのなら、私も秘密をバラしたりはしません」
「…分かったわ」
「ところで炎城さんはなぜ能力を使おうと思ったんですか。得体の知れない力じゃないですか」
「使えるものは何でも使う。蹴落とされる前に蹴落とすのがアイドルの争いでは重要なのよ」
「炎城さん程の実力でも卑怯な手が必要なんですね」
「実力だけじゃ意味ないわ。前のグループで私は嵌められた。不動のセンターの私を蹴落とすためにね」
「嵌められた?」
「ビタミンC100のフロントメンバーをゴット5と呼ぶのは知ってる? つまり、実力至上主義のこのグループでトップ5の人気を持つメンバーのことなのだけど、私がいた時、他の4人の人気は拮抗していたの。だから、私がいなくなれば4人はセンターになれる可能性が高いわけで、当然私を邪魔に思っていたわ。彼女たちは帰宅中の私に男を仕向けて、強引に唇を奪わせた。そして写真を撮って、週刊誌に売りつけたの。後は、私に彼氏がいたと知っていたと証言すれば、どんなに否定しても誰も私を信じない。こうしてスキャンダルが生まれたってわけ」
「そんな…」
「ね? 私は彼女たちの倍は練習をしていたし、誰よりも真面目に生きてきたつもり。でも生き残ったのはアイツら。だからアイドルに必要なのは実力なんかじゃなくて、狡猾さや残虐さだと知ったわ」
「確かにそうなのかもしれません。でも、炎城さんはそれで楽しいんですか?」
「楽しいわけないじゃない。センターに抜擢されたとき喜びを感じれたのだって、必死に頑張ったからだってわかってる。アイドルという戦場は私に勝負の楽しさを教えてくれた。でも、楽しいだけじゃだめなの。二度とアイドルの肩書を失わないためには、正々堂々だけじゃだめなの!」
りりは途中で感情が爆発したのが、涙を流し始めた。
せいらは、以前のグループにいたときのりりは自分と同じだったのだと思った。真正面からの勝負の楽しさを味わうためにアイドルをやっていたのだと。
そして、ここで嘘をついて交渉を有利に進めでもしたら、かつて彼女を陥れた者たちと変わらないのではないかとも考えた。そして、りりには正々堂々とした戦いの楽しさを思い出してほしいし、なにより伝説と呼ばれた彼女とせいら自身が真っ当な方法で勝負をしたいのだ。
「炎城さん、私はあなたと正々堂々勝負したいです。ビタミンC100の人たちとは違います。実力であなたを下してみせるつもりです。なので、嘘偽りなく真実を話します」
「話してみなさい…」
「まず私の能力はあなたとは全く違うタイムリープです。私のスキャンダルが出されたので時間遡行をしました」
「私にやり返すために一年前まで遡って、弱みを探していたってことかしら?」
「違います。私のタイムリープできる日数の上限は3日です。前の時間軸であなたは自分の能力で自爆したんですよ。白猫は自分から話さなかったけど、能力を使うとその者の最も恐れることが反動として起こるんですよ」
「私の最も恐れることは… スキャンダル? 人生でやった一番悪いことがグループを引退した後のやけ酒ってことかしら」
「そうです。私のスキャンダルが出された時、炎城さんの未成年飲酒の記事も出ていました。タイムリープした後に敵の能力を掴むヒントを得たくて、あなたに電話でそのことについて尋ねたんです」
「私がそれを脅しと勘違いしたってわけね」
「だから、炎城さんには誰にも能力を使ってほしくないんです。スキャンダルが出ることになりますから」
「にわかには信じがたいわね」
「魔法が存在するんですから、反動があってもおかしくないじゃないですか?」
「あんたはタイムリープの能力を使ったのに、おぞましい目にあってないじゃない」
「私は容姿が悪くなることが反動になるみたいです。でも、それもそこまで恐れていないので、大した反動にはならないようです」
「ナルシストね… でも確かにあんたの顔少し体調悪そうに見えるわ。一応信じてあげる」
「良かった! じゃあ能力を使わずに競い合っていきましょう。これからは真っ当なライバルです!」
「ちょっと待って。私が念写したあんたのスキャンダルは何だったの?」
「幼馴染とお別れにハグしているところを撮られました。まったく恋愛感情は無くてですね…」
「そんなことしちゃう様じゃ永遠に私のライバルにはなれないわね! もっとプロ意識を持ちなさい」
「はは… わかりました、炎城さん」
「ねぇ、せいら。りりでいいわよ。アイドルがメンバー同士、名字で呼び合ってるのは変でしょう?」
「はい! りりさん!」
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