第10話 研修3:天使管理課

 運命課での研修を終えて、1日経った今日は3つ目の研修先へと向かっていた。

 今日も案内してくれているアルアリスさんと軽く話しながら歩いていた。


「今日で3つ目になりますけど、慣れましたか?」


「そうですね…正直、慣れたとは言えませんね。生活そのものには慣れたとは思いまずけど、各部署は…なんというか……濃い」


 今日までに言った2つの部署だけでも

 そんな俺の物言いがよほど面白かったようでアズアリスさんは本当に楽しそうに大声で笑う。


「ははは!まぁ、寿命がない分古い神ほど色々変わってくるみたいですからね。何事にも興味をなくしたり、飽きることなく騒いだりね」


「あぁ~そういう感じなんですか。では、今日行く部署の神はどうですか?」


「そうね。今回の所は行く予定の所全体から見ても楽だと思うわね。でも、今後の他の所は違うから今日の感覚のまま行くのは危険ね。ヒントとして伝えておくと、明日からの場所は他と比べると癖はそんなに強くないのよ?ただ…」


 そこで言葉を区切ってアズアリスさんは何といえばいいか、言葉を選んでいるようで少し悩んでいるようだった。

 けれど目的地に近づいたのか足を止めてゆっくりと話すを再開した。


「ただひたすらに…


「忙しい?え、それだけですか??」


 先ほどまでの反応から今まで以上に癖の強い神のいる場所なのだと思っていたが、予想外の言葉に俺は疑問しかなかった。更に深堀して聞こうと思ったが、その前に目的の場所に着いてしまったようだ。


「さて、今日の研修先は『天使管理課』よ」


 そう言ったアズアリスさんの後ろにあるのは白い、本当に白い場所だった。ちょっと白すぎて見難く不思議なほどに影も存在しなかった。

 先導するアズアリスさんの後に続いて入ると、そこは無数の果ても見えないような広大な受付が並んで多くの人型獣型問わず神々が行き交っている。


 更に奥へと進むと書類の山と格闘する職員の神々を脇目に、一番奥で他の数倍はアル書類を数倍の速度で処理している神が1柱。

 長い薄いクリーム色の髪を一本に縛り、細い淵の眼鏡をかけた綺麗な男神だ。

 服装は神界に来てからも何度か見ているスーツで色はまたも白だ。


「うん?あぁ…今日だったか」


 書類から視線を上げて俺の方を見てきた。

 その目は星のような文様が浮かんでいて、まるでこちらの内側から何もかも全てを見られているかのような感覚が襲ってくる。

 だが相手は別に何の悪意もない、単純に今日が研修の日だった事を本当に忘れていただけのようだった。


「では、新神は引き受けよう」


「お任せいたします」


 そうアズアリスさんは短く引き渡しを完了すると小さく『頑張って』と言って帰って行った。残された俺は何と声を掛ければいいのか少し考えていたが、黙っている方が失礼なのは変わりないので無難に挨拶をすることにした。


「どうも俺…私?は新神のまだ名前もはっきりしていない者ですが、今日一日はよろしくお願いします」


「よろしく。私は天使管理課の代表の『天輝てんき神・ホーステラ』だ。まず1日では大した仕事は任せられない。今日は君には私のそばに居て仕事を見て、適時渡す書類を言われた場所へ運搬してもらう。それ以外は必要な時に指示をだすので聞き逃さないように、質問はいつでも答えるので好きにするといい」


「わ、分かりました」


「では、以上だ」


 そう言ってホーステラ様は目の前の書類の処理へと戻ってしまった。

 完全にやる事のなくなった俺はとりあえず周囲での会話に耳を澄ませる事にした。


『現在の位階ですと天使は1体追加できますがいかがいたしますか?』


『結構だ。世界の維持には十分だからな。それよりも天使を強化したいので許可申請をしたい』


『畏まりました』


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『…本当にこの外見でよろしいのですか?』


『?ウツクシイダロ?』


『そうですね…問題ないようですので申請書へサインをしてお待ちください』


『ワカッタ』


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『$”%$%&”#&$&”』


『’$”%”%$’”%$!%!$GQ$F$#R#"R』


『R#"QFQ#RFWG&$#HEW』


『($#&%TG##%#TFT#$』


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 最後を除いてすべてを聞くと天使とはサポートロボットのような認識なんだろう。

 と思ったが、他には天使を家族のように親しみを込めて名前を付けている神もいた。なので神によって天使の扱いも大きく違うようだった。


「新神この書類を受け付け395番に『書き直し』と伝言と共に届ろ」


「わかりました」


 急に書類の束を渡されて届け先の受付番号を言われたが瞬時に頷いた。

 どう見ても断れるような目をしていなかったし、思いっきり命令口調で言われて断る勇気は俺にはない。

 ただ問題は届け先がどこか分からない。


「えっと、395番…395番…395番……」


 移動を始めて受付の方を見れば確かに番号が振られていた。

 しかし一番近い所の番号が3098番だった。そこから395番まで行くのは途方もなく遠い。さすがにのんびり歩いて行ったら神とは言っても遅れてしまう。

 なので今回は普通に急いで行動する。


 まだ人間だった時の感覚でどうしても躊躇してしまいがちだが、やはり人間ではなくなったことをいい加減に理解すべきなんだろうな。

 望んだ番号を思い浮かべただけで、その場所へ移動できてしまうのだから。


 そうして395番の受付担当の神に伝言と書類を渡して、今度は元の3098番を思い浮かべるとすぐに戻ってこられた。

 ここ神界では神の力は絶対だ。他の神のテリトリー内でなければ好きな場所へ望めば移動できるようになっている。『天使管理課』はホーステラ様のテリトリーではあるけど、許可を出されているので俺も自由に移動できるようになっているのだ。


「質問よろしいですか?」


 戻ってきた俺は聞き耳を立てている時から気になっていた疑問を聞いてみる事にした。


「好きに聞け」


「では、天使とはどういう用途で用いられるものなんですか?」


 先ほどから見ていて思っていた事はこれだった。

 なにせ見る天使ごとに姿かたちが全く違うし、思考力や持つ能力も全く違う。なのに神々はまるで早急に必要だ!と言うようにこぞって天使の申請をしていくのだ。

 これはなにか明確な用途があっての事だと思ったのだ。


「そんなことか…主に神の仕事の雑用係と言ったところだな」


「雑用ですか?」


「そうだ。特に世界を管理している神々にとっては下界に簡易的に干渉するための手段の1つでもある。天使に伝言や物品の運搬を任せたり、反対に世界の維持管理に邪魔な存在の排除を任せたりもする」


「なるほど、神が直接干渉するほどではない問題を任せるってかんじですか」


 世界を管理する神でも一定水準を超えると直接的な干渉には制限が掛かるようになる。それ以前からも直接的な干渉は推奨されておらず、小さな問題全てに神が干渉しては世界が発展しないためだ。

 その事は前から知ってはいたけど天使はそういう時に使える手段の1つだという事だと俺は認識した。


「概ね間違ってはいない。他にも細々とした用途もあるけどね。中には単純に話し相手を求めてと言う者もいる」


「結構理由は色々なんですね」


「そうだ、天使とは神にとっての手足であり道具であり家族でありペットだ。それぞれの考え方によって意味も何もかも違うから、結局のところ断定した用途という物はないとも言えるだろう」


「なるほど…」


 思っていた以上に天使と言うのは神にとって密接な存在のようだった。

 ただ説明はそこまでだったようで、以降は何も話すことなく淡々と仕事を熟した。その間にも色々なことが周囲を見ていてわかった。


 天使管理課の仕事は新たに天使を創り出す時の許可申請だけではなく、能力や外見の強化・変更する時の許可申請。

 天使を別の世界へ使いに出す時の渡航申請。戦闘行為をした時の被害状況の報告なども受け付けていた。


 他には天使同士での諍いが起きた時に決着を付けるための場の用意をしたり。

 天使の結婚の申請も請け負っていた。


 申請は基本的には神自身が行わなくてはいけないのだが、結婚などの天使自身が主な理由の時は天使が申請をしに来ることもあった。基本的に天使は人と変わらない姿の者が多い、けれど3割ほどは動物や怪物に鉱物の化身のような者まで多種多様な姿の天使もいた。

 正直、スライムと言うかヘドロのような者が現れた時には少し身構えてしまった。


 だけど本当に俺が一番の意味でを覚えたのは『戦の神』に使える天使達だった。他の天使は神々しさや禍々しさがあっても誰からも脅威を感じる事はなかったが、戦の神の天使達は姿こそ普通に人型だったが纏う空気が全く違った。

 どこか重苦しく、そして体験した事はないが『』そうとしか言えないものが場を支配していた。


 それを感じた瞬間に体が怯み自分が殺される幻覚すら見た。

 他の神も似たような感覚を覚えたのか力の弱い神は意識を失い、なんとか耐えている神も顔に怯えを滲ませていた。


 早く行ってくれ‼と願いながら様子を見ていると本当にただの報告だったようで、書類を提出して少し話をすると何事もなかったかのように帰って行った。

 同時に感じていた重苦しいプレッシャーから解放されて全員が安どの息を漏らした。ただ俺を除いた者達は慣れているのか、次の瞬間には何事もなかったかのように事務仕事に戻った。


 その後は特に問題もなく仕事を済ませる事が出来た。

 むしろ今日までに行った他の課と比べて責任感と言う点では気分的に楽だったからか、一番気持ちよく仕事に集中できていたと思う。

 証拠と言うわけではないが気が付いたら終わりの時間が来ていた。


「よほど集中していたようだな」


「はい、全体的に落ち着いた雰囲気でやる事も雑用のようなものでしたし」


「そうだとして緊張なりなんなりしたとは思うが?」


「緊張はしましたけど、それはそれこれはこれでしょう」


「なるほど…」


 俺の受け答えに何か思う事でもあったのかホーステラ様は急に黙ってしまう。

 そのまま少しの間沈黙が続き困っているとようやくホーステラ様は、全てを見通しそうな星の描かれた瞳で見つめてきた。


「また、縁もあるだろう。その時はより厳しく大量に仕事を任せるので、心にしておくように」


「は、はい!」


 今日が初対面だけどホーステラ様の瞳に見つめられると背筋が伸びてしまうんだよな。何とか頷くことはできたので、それに満足したのかホーステラ様は眼を逸らして再度何を言ってくることはなかった。

 そして最後に任されていた書類の運搬を終わらせて、迎えに来ていたアルアリスさんに着いて行って帰る事にした。



 


 

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神の社会も甘くない‼ ナイム @goahiodeh7283hs

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