第202話 最終話。
「よし、真奈美、
「「はい(にゃ)!!」」
オレたちは、車庫ダンジョン10階層のボス部屋に軽トラに乗って突入した。
◇ ◇ ◇ ◇
10階層のボス部屋。
そこに現れたるは、悪魔の群れ。
鋼鉄よりも硬い外皮と爪と牙を持ち、
高位の魔法をも操る、およそ人の持つ畏れの感情を具現化した存在。
闇の勢力が、この世に恐怖をもたらすべく遣わしたモノ。
世界中の人間のマイナスの感情を集積したダンジョンリソースの最後の
それらがオレたちの前に立ちはだかる。
「グレーターデーモンの群れか!」
世界中のダンジョンに現れる魔物の類は、多くの人間のイメージを集積した姿を模している。
悪魔と言えば、世界的線画ダンジョンRPGに出てくる代表的な存在、群れで現れる恐怖と言えば、やはりこいつになるのであろう。
「アークデーモンもいますよ?」
そして、さらに上位の悪魔の存在。
「にゃー、首刈りの緑のピエロさんもいるのにゃ!」
さらに、一撃死の攻撃を得意とするフラックまで。
しかも、ゲーム上では1体ずつしか出現しないそれら上位個体が複数。
強敵のオンパレードだな。
「
「
おまえらもゲームに詳しくなったなあ。
「油断するな。この後に控えているかもしれない」
「わかったのにゃ」
さて、正念場だ。
いくらレベルを上げたオレ達とは言え、軽トラから降りて直接攻撃を仕掛ける最中に魔法の飽和攻撃をくらってしまってはひとたまりもない。
魔法を使わせないように、それか、魔法攻撃の対象を一か所にしぼるか、
よし、ここはオレが『挑発』でひきつけて――
「『次元斬』!」
「『三毛猫乱舞』!」
なんて、作戦を考えている間に二人が新技を繰り出した。
「あれ?」
「全滅ですね」
「にゃー、手ごたえ無いのにゃ」
いやいや。
ここは血沸き肉躍る戦闘シーンの描写が数話に渡って繰り広げられる場面じゃないのかな?
そうか、この後にワードナとか真のボスが――
「クリアにゃね。」
「そうですね。これがダンジョンコアってやつなんですね」
おーい、あっさりし過ぎだろ――(棒)
その時だった。
「はーい! 猛々しい武田さ~ん! おめでとー! 無事クリアなのよ!」
例によって、うざい声が響き渡る。
「そのダンジョンコアで最後よ! それを破壊すれば、地球も異世界の惑星も完全に光の勢力の影響下に入るわ!」
「じゃあ、これを破壊すれば――」
「最後の〆はこの時空の女神さまにお任せあれー! えいっ!」
ダンジョンコアは粉々に砕け散った!
その瞬間、ダンジョンがゴゴゴという轟音と共に大きな揺れに包まれると同時に、破壊されたダンジョンコアから発せられる膨大な光に包まれ、
オレたちは気を失った――。
◇ ◇ ◇ ◇
――あれから1年後。
突然異世界に軽トラごと転移した佐藤真治さんは、無事こちらの世界に戻ってきた。
本人から聞いた話によると、異世界との間を往復する力を得た『軽トラ』は、もはや向こうの異世界に渡るチカラを失ったのだとか。
異世界で悪の宗教組織を作り暗躍していた悪の魔人を倒した後、数分するといきなり魔法陣が現れ、軽トラごと地球に転移し、その後は何度試みても異世界への転移どころか、様々な軽トラのオプションや魔法も発動せず、本当に普通の軽トラに戻ってしまったとのこと。
そのため、シンジさんは異世界に現地妻? のような人たちや、少なくない友人たちもいたようだがその人たちとはもはや会えなくなってしまったとのことだった。
そして、駐在所勤務の武藤さんらはと言えば。
ダンジョンがこの世からなくなったため、『ダンジョン課』との兼務を解かれて通常業務に戻っているとのこと。
そして、異世界から転移してきた冒険者の少女、ルンちゃんはと言えば、アメリカ大統領の靄を祓って数分したのち、こちらもまた魔法陣が現れて向こうの世界に戻ってしまったらしい。
らしいというのは、異世界との連絡の手段がないので真偽を確認できないためなのだが、状況から言って無事に戻ったとは思われる。
確認の手段がないので、某『時空の女神様』に確認したかったのだが、その女神さまもあれ以降一切姿を現さないのだ。
あれだけこの世界をひっかきまわしておいて、なんて無責任なとも思うが、どうやらオレ達『軽トラにまつわる者』以外の一般の人たちからはクウちゃんの記憶が失われているらしい。
おそらくは、また『事象の改変』とやらでも発生させたのだろう。
で、オレ達武田家はどうなったかというと――
「あなた、ご飯ですよ」
「ああ」
そう、オレこと武田佳樹と早坂真奈美は結婚した。
あの日、ダンジョン10階層のボスを倒してダンジョンコアが破壊されたあと、気を失ったオレ達は気が付くと車庫のなかで倒れていた。
オプション機能が満載だった『軽トラ』もすっかり元の自動車に戻っている。
そして。
「美剣ちゃんもごはんですよー」
「にゃー」
あの日以降、美剣は猫の姿に戻ってしまった。
言葉をしゃべることもない、普通の猫に。
時折、猫特有のすべてを見透かすような目をしてはいるが、それは以前の美剣を知るが故の欲目なのか。
こちらの言葉を理解しているんじゃないかと思われることも多々あるが、それはオレたちの希望的観測に過ぎないらしい。
オレたちは、裏の畑で細々と野菜を作ったり、叔父に耕作してもらっている田んぼの手伝いをして日々を過ごしている。
ダンジョンから得られた様々な恩恵のおかげで、働かなくても生活できるような蓄えは手に入った。
というか、闇の勢力が淘汰されたのちは、以前のように労働力や税金を搾取されるような働き方は消え、最低限の生活費はベーシックインカムとして与えられる。
そのほかに、個人的に高みを目指す者やより良い生活を求めて仕事の収入を得ようとする人たちが、より働きやすい環境で仕事をする世の中へと変遷を遂げていた。
まあ、とは言ってもほとんどの人が向上心を持って働いており、社会システムの維持には困らないどころか日々生活の質が向上している良いスパイラルが生じている。
ということで、今日もゆっくり朝食を楽しみ、それからゆっくりと畑に出るのだ。
「美剣? カリカリ旨いか?」
「にゃー」
「チュールはおやつの時間にあげますからね? それまではカリカリとサバの水煮で我慢ですよ?」
「‥‥‥にゃー」
そんな平穏な日々。
だが、その時、
「あなた!」
「地震だ!」
久しぶりの大きな地震。
世界が闇に包まれていたころは、闇の勢力による人工地震が頻発していたのだが、最近はそれも無くなっていた。
なので、ほぼ1年ぶりの地震という事になるが――
「あれ? テレビに地震速報出てこないな?」
「スマホにも出てきませんよ?」
ん? 何が起きている?
もしかして、揺れたのは我が家だけ?
あれ? 前も確か同じようなことが――
「ご主人!」
「「美剣(ちゃん)!」」
また、楽しい冒険の日々が始まりそうだ。
―― 完 ――
自宅の車庫がダンジョンになったので、そのまま軽トラで攻略します。 桐嶋紀 @kirikirisrusu
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