第201話 同時侵攻作戦②

世界各所のダンジョンで『黒のカートリッジ』がドロップし始めてからの各国の対応は素早かった。


 まずは飛行偵察型ドローンにビルドインされ、ダンジョンの内部構造は詳らかになり、その情報をもとに、戦車や装甲車が突入、高威力の火器によりこれまでてこずっていた魔物もあっさりと、しかも比較的安全に倒せるようになった。


 勢いに乗った各国の軍隊は次々とダンジョンを踏破し、ダンジョンコアを破壊。


 世界からはダンジョンがどんどん淘汰されていった。



 これにより、ダンジョン探索を生業としていた探索者たちは一気に生活難となってしまうため、各国ではそれの対応が新たな問題として浮上していた。


 ちなみに日本では、これまでダンジョンの脅威へのインフラ整備等の対抗策による高額の税率を設定していたことにより、それなりの額の資金がプールされていたこともあり、今後、ダンジョンの脅威度が激減することによってその予算を探索者たちの生活保障に回す案が政府与党より出されている。


 探索者たちは、その生活保障の支給期間が切れる前に新しい仕事や生活様式を模索していく必要に迫られることになる。



◇ ◇ ◇ ◇



「で、世界で最後に残ったダンジョンが我が家の車庫にあると」


「にゃー、オオトリってやつだにゃ」


「クウちゃんいわく、世界のダンジョンからの残滓がここのボスに流れこんできているようです。集積されたそれを倒すのがわたしたちの使命なのです!」



 んー、なんかクウちゃんとやらが現れてからマナミサンが妙に心酔しているのは何故なのだろうか?


 まあ、確かにクウちゃんとかいう時空の女神さまはセンセーショナルなデビューを果たし、そのヴィジュアルやらちょいときわどいファッションやらでたちまち世間の人気者になっていた。セックスシンボルってやつだな。


 だが、オレは信用できない。


 あの営業スマイルは上っ面だ。


 何回かのやり取りを通じ、とってもうざくて面倒くさい性格であることをオレは知っている。


 なのに、なぜマナミサンは心酔しているのだろうか? と思って聞いてみたところ、


「クウちゃん様の剣技、『時空斬』は素晴らしい技です! 心の師匠です!」


 って返答が帰ってきた。オレに言わせれば心の師匠というよりも心に支障をきたしている人なのだが。







 話は変わるが、例の熊岱市の買い取ったダンジョンだけど、鷹爪市のストーンダンジョンを制覇した後に、一気に商業化が進んでいた。マナミサンの采配で。


 ダンジョン1階部分にはひつじさんの助けを借りて建物を建造し、なんと快楽マシマシ効果のあるラブホを開業。


 客層はダンジョンに入れる人ということで探索者資格を持った人に限られるのだが、この施設が出来たことでなんと晴田県内の資格取得者が激増。


 なんと、10代~30代の10人に9人は探索者資格をゲットするという事態に発展してしまった。


 そのせいもあってダンジョンラブホ事業は大成功。


 増築に次ぐ増築をしても日々満員御礼で日銭がとんでもないことになっていた。


 売店で販売を始めたスライムローションも飛ぶように売れた。


 ただし、ダンジョン内には避妊効果もあるので晴田県の出生率向上への貢献は出来なかったが。


 まあ、クウちゃん曰く、性愛のプラスの波動が世界に満ちて闇の削減には貢献できたということなので良かったのだろう。






 そんなこんながあったのだが、この度の全世界での『黒カートリッジ』のドロップにより、国の方針で各ダンジョンは完全踏破することとなり、熊岱市ダンジョンは晴田県警機動隊の活躍により先日ダンジョンコアが破壊され閉鎖となった。


 このダンジョンの閉鎖にあたり、施設の利用者さん達が抗議の声をあげていたが施設が施設ラブホだけにまとまった団体を形成してまでの行動までは発展せず、抗議の効果は微妙なところとなっていたが。





 まあ、そう言うこともあって、なぜか我が家のダンジョンが世界の最後のダンジョンとなったという事らしい。


 今回のダンジョン踏破のタイミングは、クウちゃん曰く「ときが来たのよ!」ということで、どうやら異世界の佐藤真治さんや、駐在所の武藤巡査部長さん達と足並みをそろえての作戦らしい。


 なんと、異世界では佐藤真治さんが闇の勢力の親玉である魔人たちを。


 駐在所の武藤さんやルンちゃんたちはアメリカ大統領に成りすまして居る魔人を。


 それぞれ打倒するという、なんかスケールの大きな話になっていた。



 それなのに、なぜオレ達だけが民家の車庫のダンジョンが舞台なのだろうか?


 クウちゃんやアシュトーさん曰く「特異点なのよ!」と言っていたが、人んちの敷地に特異点を作るなと問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。



 まあ、この期に及んで文句ばかり言っていても仕方がない。


 やることはやらないと。





「よし、真奈美、美剣、行くぞ!」


「「はい(にゃ)!!」」



 オレたちは、車庫ダンジョン10階層のボス部屋に軽トラに乗って突入した。


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