魔鳥転生~鉄定規と錆籠宮殿~

楠嶺れい

どうしろと……

 ボクは大きな籠に収まっていた。右手にはエサ入れ、隣に水、足元は止まり木だよ?

 どうなってる。


 室内はボクの常識からすればゴテゴテ過剰装飾、イギリスアンティークって感じ。

 インテリアなんて良く知らないから。イメージ、イメージ。


 さて、何でこんなところに居るのかって?

 ボクにもわかりませんよ。


 首をひねると黒い羽根で覆われてる。

 カラス服、いつの時代よ。

 某演歌歌手のようだ。


「キューちゃん、元気かなぁ!}


 うるさいよ!


 大きな大きな少女がいた。それも地響き立ててこっちに来る。


「鳴いてよキューちゃん! いつもの!!}

「キューちゃん! キュ!!}


 勝手に喋ってるよボクの口。

 いや、ボクはキューちゃんじゃないからね。あれ、ボク誰だっけ。


 するりと何かが抜けていく。


『ごめんなさい! 脳みその要領が足りなかったわ! ゆるして!』


 女神様? たしか、転生したんだった。ボク。


、がんばってね~』


 ボクの心に勝手に入ってくる……あなた誰、思い出せない。

 あぁ、記憶が流れていくっぅぅぅ!


 溢れてリンボの先に行ってしまった記憶はしょうがない。

 で、ここどこなの?


 いてて!

 おい! 死ぬだろ!!

 何するんだこの子。鉄定規でボクをつつくな! ほんとやめてよ!


「キューちゃん! ご飯だよ。 ゴミも入れちゃった♡」

「キューちゃん! やめてよ! キュ!!」

「ちょっと! 私キューちゃんじゃないからね!」


 巨大少女は怒りだす。鼻息荒くて羽毛が逆立つでしょう!

 う・も・う?


 あ、恐ろしいことに気がついた。


「キューちゃん! ボク鳥になってるよ! キュ!!」


 少女が不思議そうに顔を近づける。

 鳥目で彩度とコントラストが高いから、毛穴や瞳孔が怖いよ。


「あなた鳥よ! 九官鳥のキューちゃんよ!」


 あぁあ、命名された!


「ボク、キューちゃん! あぁぁぁぁぁ! キュ!!」


 この口癖どうにかしなければ。


 ボクは九官鳥である!




 ボクは鳥かごの中に入れられ、飼い主は貴族様のご息女で名前はまだわからない。 

 ボクの知能は辛うじて人並み。そのせいで記憶がドロー。流れましたとも。


 それも悪意いっぱいに。


 あぁぁ、知識に偏りがあるとボクの意識が泣き叫んでいる。

 まあいいや!


 とりあえず、転生したのだから定番のあれをやらねば!


「キューちゃん! ステータス!! キュ!!!」


 ぽん!


 赤いカーネーションが咲いて、下に紙っ切れがぶら下ってクルクル回っている。

 動体視力がいいから見えてるけど、普通の人には読めないよ。


 フィラ・カオス 魔鳥族 性別不明

 レベル:   1

 職業 :   ダンサー

 称号 :   *トリップ*


 HP  :  2    下

 MP  :  2    下

 物理攻撃:  4    並

 物理防御:  5    並

 魔法攻撃:  1    下

 魔法防御:  1    下

 俊敏性 : 99    神

 以下略……。


 固有スキル:無し

 スキル  :『モノマネ Lv1』『水浴び Lv1』『ハバタキ Lv1』

 魔法   :生活魔法 Lv1

 武器   :ツメ&クチバシ

 防具   :無し


 あれ、名前が妙だ。キューちゃんじゃないよ?

 それよりフィラ・カオスってなに!

 混沌してるの、恥ずかしくて名乗れない。


 あと性別不明って……そこ必要だった?

 いや、そこじゃない、魔鳥の部分。九官鳥って異世界に生息してないはず。もしかして、自動の言語翻訳機能でも持ってるのかな?

 翻訳されたのが九官鳥で呼び名がキューちゃん……おかしくはないけど。


 それに、魔鳥ということは生活魔法以外の攻撃魔法が使えるに違いない。

 間違いないはず。


 魔法が使えるかもしれない。

 やったね!




 この感じからすると成長要素のあるRPG、スキル制ではなくてレベル制。

 そして雑魚のように弱い。スキルは……無いよりましと信じよう。

 しかし、ゲーム世界に転生と考えるのはまだ早い。

 当面は安全にレベルアップして……。

 そのあとは?


 目的は鳥から成りあがって人になる。なれるよね?

 まあいい、早く人間に……というやつ。

 その為にはレベルアップ!

 スキルやステータス上げるには籠からでなければ。


 この少女、どうするかな。

 居眠りしてるし。


 死んだふりして、籠から出させる?

 籠のまま火葬されたらいやだ。いくら何でも取り出すかな。

 でも、癇癪持ちだったらいやだし。


 とりあえず観察しよう。上手く屋敷から逃げ出しても九官鳥では餌になるだけ。

 よく考えたらどうやってレベルアップするのか。

 目途も何もあったものじゃない。




 何日か籠の中から部屋を観察してわかったことがある。ここは王宮の中で王女の居住区内にある。そして飼い主は第三王女のシルヴィア、癇癪王女と呼ばれて手が付けられないらしい。

 鉄定規を出すくらいだ間違いない。


 王女シルヴィアは6歳、鉄定規で素振りする冒険家志望女子。


 逃亡の作戦としては王女をうまく誘導して外に出る。そこまでは簡単に実行できる。

 問題はその先、レベルアップ。


「キューちゃん! あなた何したいの? お遊戯?」


 鳥らしいこと? なんだろう。

 まあいいか。


「キューちゃん! はね。お外で遊びたい!! キュ!!」


 こんな感じかな?


「うん、私の手に止まるなら出したげる」

「キューちゃん! うれしい!! ……」


 最後のキュを我慢できた! 進歩だよ。

 あ、ガサツに籠を開けられ掴まれた。怪力だし、痛いし。


「手に乗るのよ! キューちゃん!」

「キューちゃん! はい! 姫様!! キュ……」


 言いかけちゃったよ、油断した。とりあえず空を飛んで手に乗らないと。

 ボクは羽ばたき風を切って滑空する。

 お、早いぞ。


 うまくシルヴィアの右手首に到着した。


「よくやったわ!! 家来にしてあげる。キューちゃん!」

「キューちゃん! ありがとう。ずっとお外にいていい?」

「いい子にしてたから。許すわ!」


 とりあえず、誘導して外に出た。当分一緒にいたほうがいい。

 癇癪が発動したら空に退避で。






 それから苦節十年、ボクは王女と一緒に勉強して魔法を習得した。

 習得するときにモノマネスキルが有用だった。


 シルヴィアはすでに洗脳してボクのになっている。

 現在のスキルを見て、自分でも驚いてしまう。


「ステータスオープン!」


 ぽん!


 フィラ・カオス 魔鳥族 メス

 レベル:   4

 職業 :   ダンサー

 称号 :   *トリップ*


 HP  : 24    下

 MP  : 31    下

 物理攻撃: 14    並

 物理防御:296    神

 魔法攻撃: 18    下

 魔法防御:  5    下

 俊敏性 :192    神

 以下略……。


 固有スキル:無し

 スキル  :『モノマネ Lv70』『水浴び Lv23』『ハバタキ Lv17』

 魔法   :生活魔法 Lv10、招待 Lv1、 魅了 Lv85

 武器   :ツメ&クチバシ

 防具   :無し


 驚くほど進歩していない。外の世界に逃亡することを諦めたのはステータスやスキルの伸びが悪かったからだ。逃亡しても速攻で強い魔物に殺されていたはず。


 期待したボクが悪かったのだけど、新しいスキルを全く覚えられなかったし、進化等の上位スキルへの選択肢も出なかった。


 そんなボクでも魔法は頑張ったと思う。魅了はこの国でナンバーワンになっていた。そして、招待は使い道どころか……詳細が何もわからない。お客さんでも、おもてなしするのだろうか?


 性別がメスなのは女言葉を強要された結果だ。

 嫌だったのに、王女がブチ切れるから諦めた経緯がある。おかげでメスですよ。


 まあ、鳥だからどちらでもいいのだけど。


「愛しのフィラ! どこいったの出てきて。お願いよ……」

「姫様こちらですよ」

「今日も可愛いわね。よしよし! 愛とか色々なもの注いであげる❤」


 魅了でご覧の通り、シルヴィアは調教済みですよ。血の滲む努力というか、鮮血が飛んでたけど。鉄定規のおかげで……。




 まあ、物理防御が神になったし結果オーライです!

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魔鳥転生~鉄定規と錆籠宮殿~ 楠嶺れい @GranadaRosso

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