第6話 悪魔は語る

 こうして勇助は、右手が元通りになり、連載を再開した。涼真と勇助、2人はいつか合作マンガを出せる日を夢見て、切磋琢磨していくのだった。



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 その頃、悪魔達と言うと……。


「おーい、アスタロトー。バアル様が来てやったぞー」


 悪魔こと、アスタロトの元に友人悪魔のバアルが来た。


 バアルは、猫の頭をした人型の悪魔だ。黒いロングコートに革のパンツ、革のブーツといった格好で、両肩にはそれぞれヒキガエルとクモが乗っている。


「おー、バアル」


 バアルの声に手を上げて返事をするアスタロト。


 アスタロトの舌や両手足を封印していた釘は、辺りへ散らばっていた。


 2匹は酒を飲みながら、しばし歓談する。


「けどよーアスタロト。もうこんなとこにいなくてもいいだろー? 封印はもうとっくに解けてるし、フリをしなくてもよー」


 酒をグビグビと煽りながら、尋ねるバアル。


「そーだなー。オレをここに封じた男の孫に復讐出来たしなー」


「封じた男の孫って、あの涼真ってやつ?」


「なんだ、オマエ。のぞき見してたのか? いい趣味だなー」


 どうやらアスタロトは、自分を封じた男に復讐したいがために、封印されているフリをしていたようだ。


「しかし、オマエ達のこと見てたけどよー。なんであの人間は、せっかく奪った友人の右手を、元通りに治してくれとか言うんだ? じゃあ最初から願わなけれりゃいいだろーがよー。魄を2つも失ってよー」


 わけがわからないといった風のバアルに、アスタロトは話してやる。


「そこが人間の面白いとこさ。いわゆる『失ってからわかる大切さ』というのが、人間にはあるんだよ」


「人間ってよくわかんねーなー。まあ、オレらにゃ魂さえくれりゃどうでもいいがなー」


 ところで……と、バアルは言う。


「あの涼真ってやつの7つある魄、喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、愛、欲望、悪意の内、どれを奪ったんだ?」


 尋ねるバアルに、アスタロトがおかしそうに言う。


「アイツにゃ、最初に楽しみを、次に悲しみを取った。魄が、人間の感情のこととは知らずに、アイツ……傑作だ」


 笑うアスタロトに、バアルはうんうんと頷く。


「楽しみがなけりゃ、生きている意味がその内わからなくなるし、悲しみを取られちゃその内、何事にも泣けなくなっちまうし。あーあ、カワイソー。死後に魂を取るオレの方が、よっぽど優しいぜー」


 バアルの言葉に、アスタロトは鼻で笑った。


「人間は失ってからじゃねーと、大切なもんがわからねーみてぇだからな。後悔先に立たず、だな」


 喋りながら、ラジオ体操を始めるアスタロト。


「身体が強張っちまっていけねーたら」


 などと呟きつつ、ラジオ体操を最後までやりきった。


「ま、そんなとこだ。さて、オレもオマエみたく自分からエモノ探しに出掛けるかなー」


 2匹の悪魔はコウモリの羽を出して、祠から出た。祠から出ると元の大きさに戻り、身体を「んー」と伸ばしたのち、飛び去っていった。



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 ────────


 魂を差し出してでも、叶えたい願いが人間にはある。


 ありとあらゆる欲を持つ人間がいる限り、悪魔達は獲物に困らないのである。




 完


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悪魔は語る 梅福三鶯 @kumokuro358

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