第5話 後悔の先に
アイツがあのまま連載していたら、どうだったんだろう……俺は腑抜けのままだったかもしれない。
あの時悪魔に願ったことは、間違っていないと自分に言い聞かせる。
だが……この物足りなさはなんだ? アイツは一緒にプロを目指す仲間でライバルだった。2人で刺激し合い、切磋琢磨してきた。それがない今、自分だけがプロでいることの、この虚しさは一体……。
マンガを描く手を止めて涼真は、あの2人で作った合作マンガが描かれたノートを手に取る。
パラパラとめくり、最後の余白部分、そこに大きく書かれた言葉に初めて気付く。
『僕は涼真の一番の読者だからね。がんばれ、涼真。ずっと応援してるよ!』
涼真の瞳から涙が落ちる。
アイツは、アイツはこんなにもいい奴なのに俺は……。嫉妬に狂ってアイツの人生を台無しにしちまった。
もう一度、合作マンガのページを始めから一枚一枚めくりながら、涼真は思う。
俺がダメになっている時、励ましてくれたのだって、俺とまた合作マンガが作りたいってそう思って言ってくれてたんだ。なのに、俺は……!!
涼真は手に合作マンガのノートを持ったまま、「先生!?」と呼び止めるアシスタントの声を無視して、外へ飛び出した。
あの悪魔にもう一度願おう。勇助の右手を元に戻してもらおう……!!
そうして辿り着いた祠。その扉を開けると前と同じ、釘に刺された状態の悪魔がいた。
『どーした、小僧? また願いごとか?』
笑う悪魔に、涼真は言う。
「頼む。アイツの、勇助の右手を元に戻してくれ!」
『なんだ、せっかく動かなくしてやったのに、元に戻せ? おかしなことを言うもんだなー』
「早くしろっ!」
『わかったわかった。けどまた1つ、魄を戴くぜ?』
「それでいいっ!」
叫ぶ涼真に『ホラ』と、悪魔はゆっくりまばたきをした。
すぐに涼真は勇助に電話をかける。
「勇助! 右手、右手はどうだ!」
尋ねる涼真に勇助は答えた。
「あ、涼真。僕……なんでかわからないんだけど、今リハビリをしていたら右手が動くようになったんだ……」
その言葉に涼真は安堵し、ぼろぼろ泣いた。その姿を見て、悪魔は笑う。
『おかしなヤツだなー。自分で奪っておいて、元に戻すって。それで泣いてんだもんなー』
「うるさいっ」
悪魔の言葉に怒りをぶつけながら、涼真は泣き続けた。
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