第4話 芽生えた罪悪感

「ありがとう。短編が何本か決まったんだ。あとは長期連載を目指してがんばるよ」


 笑顔のまま答える涼真に、勇助は感慨深く話し出した。


「けど、1年の月日はあっという間だったな。僕も今頃は連載していたかな?」


 重くならないように、さらりと言って勇助は笑う。勇助の右手は1年経っても動かないままだった。彼の言葉に涼真は心が痛んだ。


 涼真は勇助と同じプロデビューをして、やっと彼に対する嫉妬が薄れていたからだった。


「リハビリしてんだろ? 大丈夫だって、いつか治ってさ俺と同じプロでやっていこーぜ」


 罪悪感と憐れみをない交ぜにして、涼真は励ます。


 そんな涼真に笑って、勇助は思い出したように話す。


「そうだ。今日はこれを見て欲しくて持って来たんだ」


 そう言って、勇助は鞄からA4のノートを取り出した。


「これは……」


 A4のノートの表紙には大きく、


『宇宙戦隊ユルインジャー』


 と書かれていて、その下には


『りょーま&ゆーすけ』


 2人の名前が書いてある。


「懐かしいだろ? 昔2人で作った合作マンガ。僕、これをいつも見てさ『いつかまた2人で合作マンガ作るんだ』って、気合い入れてたんだ」


 勇助は笑う。


「せっかく涼真もプロデビューして、その夢が近づいたのにな。僕がダメになるなんてさ……」


 勇助に渡されたノートをパラパラとめくると、まだ下手くそだった自分達が、一生懸命に考えて描いた痕跡が残されていた。


「勇助……」


「僕の宝物だったけど、もう持っていても仕方ないからさ。涼真が持っていてよ。それでいつかそのネタ使って、マンガ描いてくれたら嬉しいな」


 勇助は笑って話した。


 勇助の様子に涼真は思う。


 俺は悪くない。コイツがあの時、俺にあんなこと言って追い詰めて……なのに自分だけ成功して。……いいんだ、俺はあの時のコイツと同じことをしてやるだけだ。


 自分の中に芽生えた罪悪感を無理やり押し込んだ。



 ────


 ────────


 涼真は順調に漫画家生活を送っていた。短編を何本もやったし、憧れの長期連載も始まり、大忙しだった。


 けれど、常に考えるのは勇助のことだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る