最終話

「どういうことだ!この報酬!」

 悟の怒声が窮屈な部屋に響く。

 ところ狭しとものが置かれた部屋の主、そして悟の雇い主である老婆は、膝の上の長毛猫を撫でながらため息混じりに答える。

「どうもこうも、みた通りだよ」

 古い木製机の上には、報酬金額が書かれた小切手。そこには提示されていたものより十分の一の金額が記されていた。

「なんかの間違いだろ?あれがこれだけ安いわけがねえ!」

「安くなっちまったんだよ」

 老婆はふぅっとキセルの煙をはく。

「龍の感涙。雨とみまごうほど降ったんだろ?」

「あ」

 龍の感涙。どれほど貴重な宝石でも、あれだけ大量に出回ってしまえば暴落してもおかしくはなかった。

「いやしかし」

 いくらなんでも、と反論する悟に、ぴっ、とキセルの先端を向ける。

「それと、よく暴れてくれたからね。城の修繕費やらなにやらぜーんぶ払ってこの値段ってわけだよ」

「それはあいつらが!」

「喧嘩っぱやいのは性だろうけどね、損害はきっちりかっちり払うのがうちのモットーだよ。迷惑料としてもこれはやりすぎだね。全く、いつになったら大人になるんだか……」

 老婆の言葉に、ぐぬぬと悟は言い返せない。

「わかったら次!あんたのために仕事はいくらでも用意してあるんだからね」

 老婆の猫が太い尾っぽでばしりと悟を叩いた。


「まーた削られちゃったんだ報酬」

 にしし、と笑うルーに悟は青筋を立てる。

「あのババアいつか目に物言わせてやる!」

「そうだねー。で、次の仕事は決まってるんでしょ?」

「ああ」

 覗き込むルーに悟は答える。

「さっさといくぞ。今度はきっちりかっちり報酬いただくためにな!」

「うん、行こう!」

 二人分の足音が、次の異世界へと向かう。

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バイヤーズ!! 染谷市太郎 @someyaititarou

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