両極端な世界、人々は同じ最期を辿る運命なのか。

@nakimushihahaha

両極端な世界、人々は同じ最期を辿る運命なのか。

「朝はいつも眠たい、まだ寝ているようだ」


そう呟きながら、僕はいつもの通り朝七時に起床した。

身支度を終え、今年四月に入学した一五三二番高等学校へと足を進めている。


“ガラガラ…。”


ドアを開けると静かな教室が僕を見つめていた。

生憎、僕は一番最後らしい、重たい体を精一杯動かしながら、せかせかと席に着いた。


「次、体育か。」

朝のHR、一限の体育に億劫さを感じながらウトウトとしている中、

生真面目な担任が口を開いた。


『皆さんは、今と真逆な世界へ生まれていたらどうしていましたか?』



僕らには質問の意図が理解できなかった。


「真逆の世界ってなんだよ。」

クラス中のみんながみんながそう思っていた。


担任は、続けてこう言った。


『僕らは皆同じです。隣を見れば顔も性格も同じ人がいます。

そして、あなたは僕をわかってくれます。

僕もあなたを理解しています。』


後ろの席のクラスメイトが声を上げた。

「なぜ、そんな当たり前なことを今更言っているのですか?」


すると担任はそれを無視し、間髪入れずに話を続行した。

『そんな話はさておき、ある昔話についてお話したいと思います。』


何が何だか分からないまま、僕らは、その男を見つめていることしか出来なかった。


『 「ドウチョウアツリョク」というお話。皆さんは知らないでしょう。?僕の生まれ故郷の話です。』


僕らは、訳も分からない昔話に付き合わされる羽目になった。でも不思議と悪い気はしなかった。


『昔昔ある所に、』


決まり文句から始まる奇妙な昔話に、

何故か、僕らは心を掴まれた。



『みんながみんな違う顔をして、個人個人が意見を持つ国がありました。』



「何を言ってるんだ」

「とんだ戯言だ」

鼻で笑う音が教室の中で鳴り止まない。


『皆さんは、そんな世界を生きるとしたら何を思いますか?』


ハテナの連続だった。

マークが頭の上に見えるほどに。


???

「「違う顔?違う意見?そんなの有り得ないだろ」」


新たなもの達が僕らの辞書にインプットされていく。この時点で既に、僕らは、彼に洗脳さていた。


『それで?お前らならどうする。』


こんな命令口調、経験した事が無かったからか、皆んな戸惑っていた。

「え、ええと。うん、。。」


僕たちには答えを出せるわけがなかった。

魚が空を自由に駆回る。と言われているようなものだ。


続け様にこうも言った。

『その国には、数千、数万にも及ぶ、職業というものがある。

それらは全て共通認識されている、

「通貨」得るための手段であり、

その通貨は物品との取引が可能です。』


「いや、待て待て待て。物品は月に一度家に配送されるじゃないか。どうしてわざわざ手に入れなきゃならないんだ。」


僕らには、何が何だか分からなかった。

彼の発する言葉一つ一つが、この世のものとはかけ離れているものだった。皆同じ顔で、同じことを考える、言わばクローンである僕らには到底理解はし難いものだった。


『さぁ、皆さん、考えてください。』


いつもなら“僕ら”であった彼が、何かわからない“怪物”へと、ただただ、“僕ら”では無くなっていくのが目に見えて分かった。


「ええ、ええと。その、人それぞれのコノミ?に合ったものを選ぶのではないでしょうか?」


コノミ(好み)というものがよく分からないまま、僕はそう答えた。


すると彼からこう返ってきた。

『ほう。では、最後にもう一つ質問をする。』


『そんな世界は、歴史を刻んでゆく中で、どうなっていくと思う?』


みんなこれには大分悩まされていた。

ただでさえ新しいことばかりであると言うのに、意味のわからない質問ばかり。


だがそれにしては異常な程に、多く意見が出た。


「「みんながみんな、その好みというものを尊重して物を手に入れるんじゃないかな。?」」


「「違う意見が出るって言うことは、僕らとは違って、新しいものを見つけれるってことだよな。!?」」

そんな明るい声も上がった。


「「僕らには分からないけれど、僕らより遥かに楽しい日々なんじゃないかな。」」


みんな心做しか、いつもよりも目が輝いていた。

そして皆それに賛同した。


皆が皆、同じ意見を持ち、同じ顔をした“僕ら”であるこの世界では当たり前の話だが・・・。


怪物が口を開いた。

『要するになんだ、端的に答えろ。』


やっとの事で慣れた、強気な口調な彼に、

“僕ら”はいつものように口を揃えてこう言った。



『『自由』』━━━━━━━━━━━━━


怪物は難しい顔をして、こう呟いた。

『フラットな人間はこう思う、これが本質だ。どうしてあんなになってしまうのかねぇ・・・。』━━━



「はっ!やっと朝か。」

なにか長い夢を見ていた気がした。


朝七時、いつものように鬱陶しい声が聞こえた。

母「起きなさい、遅刻するわよ。」


少々腹を立てながら僕は口を開いた。

「わかってるよ。うるせぇな。。」


身支度を終え、自転車に跨り、学校へと向かっていた“僕”だが、何かを忘れている気がした。


「何か難しい夢でも見たのかな。」


頭が重いし、なにか疲れている。

まぁ、そんなことよくあるのだが。


学校につき、小走りで教室へ向かった。

一言、「おはよう」。

クラスメイト達への挨拶は日課だ。


今日の一時間目は、初めて実施される授業らしい。

どうやら、将来の事について発表するらしいのだが僕はそれが、億劫でたまらない。


『おっ。お前一番だな。頑張れよ。』


先生がそう言った。

何故かこういう時だけ一番を引いてしまう。


「まぁ、やるしかないしな」

そう呟きながら皆の前に出た。


『じゃあ、始めてください。』

先生の合図でクラスは静まった。


「1年B組○○です。僕の将来の夢は、世界一の歌手になる事です。 ・・・?」

僕はこの時、初めて時の流れが止まるのを感じた。


「「ハハハ、お前何言ってんだよ!!お前じゃ無理だろ!!」」


クラス中からそんな声が聞こえる。


「なぜ笑われる。?」

僕にはよく分からなかった。

いいや、何を言っているんだろう、そんなのわかるに決まっている。


そう。これが所謂「同調圧力」だ。

「そんなものにはなれないと、他人からの評価に押しつぶされてしまう。」


ふと先生が視界に入る。

彼もまた、口角を上げて、蔑むような目でこちらを見てきた。大人も子供も関係なかった。


僕は、昨晩見た長く難解な夢を全て思い出し、一言。

『なんだよ、怪物。みんな、自由に縛られたクローンじゃねえか。』


その瞬間、どこからか声が聞こえた。


『そんな世界が、歴史を刻んでいく中でどうなっていくと思う?』


なにか聞き覚えのあるようなその声と台詞に、“僕”、“僕ら”はこう答えた。


『『自滅』』━━━━━━━━━━━━━


偽られた自由があるこの世界は、皆が皆、同じ人間であれと謳い個性を削る。


皆が皆、同じ人間であるどこかの世界は、個性があれば、それが、自由であると羨む。


一見、極端に見えるこのふたつは、まるで鏡であるかのように共存し、同じ最期を辿る運命のように見えた。人間はみなクローンでなきゃならないのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

両極端な世界、人々は同じ最期を辿る運命なのか。 @nakimushihahaha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ