第4話

 梅雨になった。

 この時期になると、私たちの秘密基地にも雨音が響く日が続く。硝子の基地にはドアがないとはいえ、蒸し暑い。この小さい空間に、成長期の二人。年々狭くなっていくようだし、実際そうなのだろう。思えば、三上もだいぶ背が伸びた。三上ほどではないにせよ、私も少しずつ伸びていっている。脚が伸びたのか、胴が伸びたのか。できれば前者であってほしい。スカートから伸びる脚が、他の同級生より綺麗な自覚はある。運動部で鍛えられた女の子たちの脚は、部活によっては脹脛が主張している。四角い筋肉と、白いソックス。私の脚は、筋肉が少ない。

「もうすぐ学校説明会だけど、いつ行く?」

 下敷きで首を扇いでいた三上が、私を見る。三上の細く白い指が生み出した風が、三上の毛先を揺らし、首を撫でた後に微かに私に触れていく。

 学校説明会。待ちに待っていた、三上と出かけることのできるイベント。これから三上と通うことになるであろう場所。まるで舞踏会が開かれるお城に行くかのようだ。童話の中のお姫様の気持ちに、今ならすこしばかり共感できるかもしれない。

「三上の都合は?私はいつでも大丈夫だよ」

「僕もいつでも大丈夫。なら初日に行っちゃおうか」

 その言葉に同意して、脳に日にちを刻み込む。土曜日だ。その日に、制服を着て、同じく制服を着た三上と一緒に電車に乗って、通う予定の高校へ足を運ぶ。どんな道のりになるだろう。長い間、秘密基地の外で三上と二人きりになったことがないのだ。秘密基地にいる間より、距離が開いてしまうだろうか。それとも、その逆になったりするだろうか。

「もし…もしもさ、いまいちだなって思ったらどうする?」

「そしたら別の高校の説明会も行こうよ。本当は色々行くべきなんだろうし」

 プールがない高校に限るけどね、と笑う三上に、頬が緩む。三上。私の大好きな三上。

 学校説明会の日程を母に告げ、初日に行くこと、付き添いは必要のないことを言い添える。大抵の学生は親を伴うだろう。そうすれば親も学校の方針や雰囲気が理解できる。けれど、母がいたら落ち着かないだろう。心配そうにする母に、帰宅したら聞いてきたことを話す約束をした。そうしなくとも、きっと興奮しながら話してしまうだろう。父にだって、学校のパンフレットを見せながら、あらゆるページの説明をする自分が目に見えるようだ。三上との二人きりでの外出の機会を逃したくないだけで、私は両親が好きなのだ。

 

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硝子の基地 加賀綾乃 @ryo0609

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