番外編 教師生活編

最強の殺し屋が今度は教師に!?

「はぁ……」


 俺こと蘭一縷(あららぎいちる)は深いため息をつき、リビングの机の上で頬杖をつきながら目の前にいる恋人の二階堂零と雑談をしていた。ため息をついてしまうような雑談というのはどのようなものかと言うと、ざっくり言えば就活のようなものである。俺と言う人間は殺し屋をやめた。殺し屋をやめたと言うよりかは、組織を抜けたと言う方が正しいだろう。だが、過去俺は殺しを営んでいた。金なんて働かなくともたんまりある。でも、なぜ働こうとしているのか。単なる暇つぶしである。


 組織を抜け、22歳になった今、暇という一番の悩みに苛まされているのだ。中には零とのんびりしたイチャイチャライフを過ごせば良いと言ってくる奴もいると思うが、暇というのは恐ろしく、働きたいと思ってしまう。俺は今そんな状況に陥っていた。


「一縷は学歴が無いから仕方がないよ……」


 励ましの言葉とも取れる零の言葉だが、今の俺には励ましにも聞こえるし、心を抉るナイフのような言葉にも聞こえる。学歴が無いと言うのは、捉え方によれば暴言である。


「ん〜どうすっかなぁ。俺の実力を活かせる職種ってなんか無いかなぁ」


「伊集院の護衛に立候補すれば良いんじゃ無い?」


「なんか気まずそうだからそれは嫌だね」


 あんな拷問された館に今度は本職として務めるとか冗談じゃない。フェイドとかいう狂信男にまたなんかやられるに違いない。


「……てか、柊家も殺し屋やめたんだな」


 何よりも驚いたのは、柊家の小百合、香純、紫苑の三人が殺し屋をやめたと言うことだ。そして、そんな女どもは俺とは違い、今という暇な時間をここぞとばかりに使ってダラダラと怠惰な時を過ごしているようだった。良いよなそう言う楽観的な思考回路って。ぜひ俺も見習いたいものである。


「でも……私は一縷と過ごせればそれで良いよ?私的には2人の時間が増えた方が嬉しいしね」


「それはそうだが……」


 確かに、俺としても2人きりの時間が増えるのは嬉しい。俺は零が好きだし、その逆も然り。だが、殺し屋をやめてから数ヶ月が経つが、その間ずっと2人きりのようなものだった。慣れてしまったと言えば良いのだろうか。もう2人の時間には慣れてしまったのだ。だからこそ、2人の時に得られる幸せも、退屈という感情に変換されてしまうわけである。


「………もしかして……私のこともう好きじゃ無い?」


「…………ん?どうしてそうなった?」


 突如として突飛した内容の話を繰り広げてくる零に、俺は困惑した質問を返すしかなかった。


「いやだって、私といる時間が退屈になったってことでしょ?」


「いやそう言うわけじゃ無いんだが……」


 本当にそう言うわけではないのだ。零と居る時間は幸せだし、楽しい。でも、それが当たり前の日常と化してしまってるのだ。なんで言えば良いのかわからないが……そう言うことなのだ!!


「もしかして……浮気!?」


「んなことしてねぇよ!!」


 思わず大声で突っ込んでしまう。俺は一途だ。ゆえに浮気なんてあり得ない。俺が関わってきた女は全員可愛いが、それでも零が一番だ。ヤンデレ気質なところは抜けてないけど。と、そんな会話を繰り広げていた瞬間、俺の携帯の着信音が部屋中に鳴り響いた。掛けてきた人物名は柊小百合だった。一体何の用があるのかわからず、訝しみながら俺は電話に出た。


「もしもし?」


「出るのが早いわね。もしかしたら暇人なのかしら」


「間違いなくこの世界でお前にだけは言われたくなかったな」


 今現在暇を満喫している柊三姉妹には絶対に言われたく無い。


「まぁそう怒らないでくれるかしら?」


「お前が挑発するからだぞゴリラ女」


「ぶっ殺すわよ」


「本当にすいません」


 平謝りするしかなかった。柊小百合にぶっ殺すって脅されるのは普通に怖すぎる。だってこいつ俺より強いんだもん。俺なんか赤子の手をひねるかのように殺されてしまう。前に戦った時は秘策があったから勝てたが、今では警戒されてしまい通じるとは思えない。つまり、次に戦ったら俺は絶対に負けると言うことだ。怖い。怖すぎるよ。零の次にね。だってほら、女と話してるせいで隣にいる零の表情がだんだんと般若のように……


「それで、本題は?理由もなしにお前が掛けてくるなんてあり得ないだろ?」


「そうね。で、本題だけど、あんた職を探してたわよね?」


「そうだが……どうかしたのか?」


「ふふ。学歴もクソも無いあんたが職につけるとは思わなくてね、色々と探したのよ」


 さっきの零みたく俺の心をザクザクと突き刺してくる言葉を当たり前のように放つ小百合の言葉を俺は聞きながら、若干期待をする。このように電話をかけてくると言うことは、何かしらを見つけたと言うことだろう。


「で、結果は?」


「ふふん。聞いて驚きなさい」


「マジかよ!?」


「まだ何も言ってないんだけど!?」


 どうやら驚くのが早かったらしい。


「話を戻すけど、ある学校を見つけたのよ」


「学校?なんだって?俺に教師をやれって言うのか?無理に決まってるだろ」


 そう。無理に決まっているのだ。学校なんて通ったことのない俺に教師なんて務まるはずがない。そもそもとして学が一ミリもないのだ。教えることなんて何もないだろう。


「ただの学校じゃないわよ」


 そうして小百合は一拍をおいて告げた。


「護衛を育成する学校の教師よ!!」





 

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世界最強の殺し屋がヤンデレ女に好かれちゃった!? フィリア @Gain0307

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